澤田直のレビュー一覧

  • シュレーディンガーの猫を追って

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    作品紹介・あらすじ

    生きていて、かつ死んでいること。
    姿を現す前に、立ち去っていること。
    二つの状態をあわせもつ猫とは、
    言葉の別名だ。

    ある夜、庭の暗闇からふいに現れた一匹の猫。
    壁を抜けて出現と消失を繰り返す猫は、
    パラレル・ワールドを自在に行き来しているのか。
    愛娘を失った痛みに対峙しつつ、量子力学と文学との
    接点を紡ぐ傑作。

    *****

    作品紹介を読むとSFっぽい印象を受けるけれど、SFではないし、いわゆる起承転結のある物語でもない(実際には起承転結はあるのだけれど)。小説と読んでいいのかどうか躊躇するけれど、こういう小説もありだよ、と言われれば「そうだな」と頷ける。だから小説

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    2025年11月09日
  • 彼女を見守る

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    ネタバレ

    ゴンクール賞。イタリアの20世紀前半激動史を背景に、軟骨無形成症の境遇で彫刻家への道を目指す主人公とパトロン家の少女とが、お互いの人生で交差する時間を大切に描いた作品。ミケランジェロ作品と並び賞されるピエタを頂点とする彫刻家パートがとても面白かった。彼女との接点での一番素敵なクライマックスは、フラ・アンジェリコの受胎告知を見せるシーン。2人の奇特な人生が絡み合う頂点の輝きを感じ取れた。もう一つの頂点は、彫刻家としての矜持を果たした授賞式のシーン。全体に反ファシズムへのメッセージが強く込められている佳品。

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    2025年10月22日
  • 彼女を見守る

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    主人公が彫ったピエタは素晴らしい。素晴らしいのだが、何故か皆、少し違和感を覚える。最後に解き明かされるその秘密。そこに至る数多くの伏線。作者のJ.B.アンドレアの構成の才能は素晴らしい。
    近代イタリアの歴史や事件を織り交ぜながら、文化遺産の解説までしてくれるので現地を旅しているようだ。権力者と貴族たちの謀略に抗う貧しき人々。目まぐるしい展開は、豊かに描写されている登場人物たちの動画のよう。読者は彼らのうちの誰かのファンにさせられてしまう。エンタメ&教養小説とも言えるが、ジェンダー問題など、現代的価値観もしっかり反映されている。

    翻訳は素晴らしく、とても読みやすい。
    惜しいのはタイトルが原題の

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    2025年08月15日
  • 彼女を見守る

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    読み慣れていなくて何度も戻ったりしながら読む。
    (訳自体はとても読みやすい)

    彼女がどうなってしまうのかが気になって、ページをめくる。聡明で好奇心旺盛で、自分の信念に忠実で。
    でも、女性ゆえ不遇、批判される人生を送り、誤解されるというか輝けない、思い通りに生きられない。
    イタリアのファシズム含め時代の暗さと反動の芸術性の対照さも見られる。

    彼女が最後にミモに送った手紙がユーモアがあって悲しくてとてもいい。ミモとの友情?愛情?時にねじれたりもするけど、ヴィオラはミモを唯一の理解者と思い時に甘える。そんな関係にミモは自信をつける、そだててもらう。
    いつも出てくるオレンジやネロリの描写が香ってく

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    2025年05月10日
  • 彼女を見守る

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    小説はこのようなものでなければならない。「女性(の……)」をキーとする共時性を持ちながらも、そこから敷衍する視線の広さと深さ。

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    2025年03月17日
  • 新編 不穏の書、断章

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    これは一生ものの一冊になりそうです。読んでいると、生活上の様々な出来事や悩みが至極つまらないことに思える。開き直ることができる。自分が自分でいられる。それでいて、時にしんみりすることもある。まるでお酒のように、飲み方によって色々な酔い方ができる作品です。

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    2023年06月30日
  • シュレーディンガーの猫を追って

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    例えば、堀江敏幸の小説のように。あるいは蜂飼耳の散文のように。流れる言葉の連なりの中に、作家の思考の断片が幾重にもオブラートに包(くる)まれた状態で見つかるような文章に、惹かれる。フィリップ・フォレストはそんな文章を書く作家のひとり。

    例えば草むらの中に転がる軟式野球のボールの白さにはっとするように。今まで歩を進めていた草原とは隔絶した物語がその白さの佇まいから流れ出すように。文章の森の中にそっと配置された思考の断片に潜んでいた別の言葉の連なりが想像され、思考が繋がる感覚を得る。しかしそれは龍安寺の石庭に置かれた庭石のように観察者の意図を寄せつけぬようでもある。加えて、石の配置の意味するとこ

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    2021年06月03日
  • 新編 不穏の書、断章

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    「わたしと私は違う」
    ペソア自身とは違う様々な人物・・・アルベルト・カエイロ、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンポス、等、様々な異名を作り上げた詩人、ペソアの散文集の様な作品です。
    ペソアの独特な思想、哲学感が反映された散文で、ニヒリズムでも、ペソアらしさが添えてあって、それだけじゃない何かが感じられます。
    取り憑かれるタイプの魅力ですが、散文なので感性が合わないと途中で飽きちゃう人も。

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    2015年06月10日
  • 新編 不穏の書、断章

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    真に書く人は本を造らない。
    「造る」は「書く」に追いつけないからだ。
    散らかした紙片の中に佇み途方に暮れる人こと詩人なのである。

    みたいなことを考えた。
    つまりはペソア病にかかっていたわけだ。

    60箇所くらい付箋が残されたこの本を、何度も読み返すことになるだろう。

    未来の郷愁。

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    2013年02月15日
  • 彼女を見守る

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    ヴィオラが語る、『墜落はほんの数秒じゃなかったの。二十六年間も続いたのよ。』ここに彼女たちの怒りがみえた。

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    2025年09月22日
  • はじまりのバタイユ

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    若干内輪感も否めない章立てが結構面白かったし、最後の章のバタイユのことばと執筆陣の文章とを並列しているのも、バタイユ的でいいなと思った。
    陣野先生の論考はやはり見事で『空の青』における足元感の喪失を、女性と窓が果たす役割から考察し、自分のフィールドであるブルーハーツにまで引っ張ってゆく力技がらしくていい。
    後半の贈与の章は両義性の点が少し面白く、贈与論の理解が進んだ気がする。
    アリストテレス読まなきゃな…

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    2025年04月09日
  • 新編 不穏の書、断章

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    前半部分の散文詩はさておき、後半は、生きること、誰かを愛すること、感受性豊かな人は幸せにはならないということ、行動するためには他人の喜びや悲しみを想像してはいけないから。お金持ちになるということは、そういった排他的な考えを持つものだけの特権なのかもしれない。なかなか面白い本

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    2024年11月24日
  • 新編 不穏の書、断章

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    何だ! 彼は、どこから来たんだ!

    ペソアを知らなかった。
    このことを口惜しく思ったと同時に会えて心底喜んだのです。形の無いアンティークを見つけたように。

    この読後感はカフカに近似しています。
    それもそのはずで、本書も『城』や『審判』と同様に未完。音量の縮減。フェイドアウト的。いやどこかの結末を目指してさえいない散文で彩られていますから、そもそも終えようとしていないのかもしれない。私たちは本というシステムでもって彼を読みます。本には最後のページがあります。書籍的には一冊を読み終えましたが、実際は彼の世界を一度撫でたに過ぎないのです。

    彼は「夢を見ている」と言っていますが、それはしなやかでた

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    2014年06月12日
  • 彼女を見守る

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    ネタバレ

    第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけてのイタリア激動期が舞台。ページ数の多さを感じさせない読みやすさで、没頭して読めた。誰もが弱さや迷いを抱える登場人物たちの姿が、とても生き生きと描かれている。もし映像化されたら、重厚な大河作品になりそう。

    面白かったけど、4星には少し足りなかった。

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    2025年11月27日
  • 百歳の哲学者が語る人生のこと

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    生きるとは、たくさんの可能性を享受すること。
    合理性の病に陥らないには、複雑性を認めて思いやりをもつ。
    認識対象との結びつきについて問題意識を持つ。

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    2023年01月11日
  • シュレーディンガーの猫を追って

    H

    購入済み

    理解が・・・

    物理学は嫌いではありませんが、やはり、一般常識が通用しない、量子の世界はついてゆけない処があります。私には、楽しく読めませんでした。ただ、途中で放り出すことにはならない程度で、興味を引きました。その意味で、☆三つです。

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    2021年12月31日
  • ショーペンハウアーとともに

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    ウェルベックによるショーペンハウアー解説本
    解説、というより礼賛に近い

    私の好きな小説家や芸術家は元を辿ればショーペンハウアー(部分的にはカント)に行き着く事が多い
    本書も例外でなく、ウェルベックの観点からショーペンハウアーを解釈するのは楽しかった。

    途中でプツリと終わってしまうが、想像の余地を残しているようにも感じられる

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    2021年08月18日