ミハイル・ブルガーコフのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
二つの話が収録されている。どちらの話も当時のロシアへの痛烈な皮肉があの手この手の表現を尽くしてか書かれていて、ロシアで発禁になるのも仕方がない。逐一注釈が同じページにあるし、最後の解説でもあるのでロシア文学に詳しくなくても楽しめる。著者は劇作家でもあることから劇にも造形が深く、かといって耽美的な描写というのはほぼ縁遠く、比喩表現も喜劇のように読み手に受けることを確信した語り口でテンポ感もある。
何が斬新かって、未来❨それも2、3年先くらい❩を勝手に捏造ししかもあたかも事実のようにピシャリと書いてしまうというところ❨しかも世界的な出来事ではない。注釈は入っている❩。いつか地球が一度滅んで、後の生命体がこれをうっかり見つけでもしたら信じられてしまうのではと勝手に心配してしまう。
どちらの話も人間が恐ろしいものを人間の手で産み出してしまう、というテーマで書かれている。犬の心臓はまだ喜劇の範疇で収まるが、運命の卵は途中から突然マジで深刻な描写ばかりになるので度肝を抜かれた。途中まで軽妙で機知に富んだ語り口でユーモラスに話が進んでいたので油断した。そういうのに弱い人は注意。個人的にはスリリングで、どうやって収集をつけるか気になって最後まで読んでしまった。 -
Posted by ブクログ
『犬の心臓』
物語の筋らしい筋が展開されるまでが冗長すぎるように思う。革命後の社会に対する嫌悪と恐怖がやや粗雑に表出してしまっている印象があり、性急なテンポの文体とも相俟って、あまり面白く読めなかった。風刺のための戯画が、人間や社会というものにどうしようもなく刻み込まれてしまっている深淵に沈潜していこうとしているようには感じられなかった。
ただ、高度に発達した科学技術によって「人間」が「新しい人間」を創造してしまうということはどういうことか、という「創造主」問題には興味を惹かれた。「産み出す」主体(meta-level)と「産み出される」対象(object-level)とが、同じ「人間」であるということはどういう事態なのか。階層上の混乱か。「人間」を不当に特権化しているだけなのか。もしそうだとするならば、「人間」を不当に特権化したがる傾向、その無意識の根拠は何なのか。人間が作りだすロボットや人工知能が人間の社会でどのような権利と責任の主体となるべきなのか、という倫理学の問題とも通じるような気がする。
また、創造の原初に孕まれる暴力ということも考えさせられた。「私のもうひとつの仮説は次のようなものである。コロの脳は彼が犬として生きてきた間にいろいろな概念を貯め込んだ。コロが最初に使い始めた言葉はどれも、路上で使われているような言葉ばかりだった。コロがどこかでそれを聞いて、脳に保存したのだ」