周防柳のレビュー一覧
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百人一首がどう成立したのか、家隆との友情と恋、それに後鳥羽院も混ざっての三角関係という著者の想像力と、幕府との関係や承久の乱などいろいろな史実としてのイベントを絡めてその過程を描いている。終わりのほうは本当に泣ける。いい小説だし、和歌とは何かとか、当時の朝廷と幕府の関係とか、あまり今まで意識してこなかったこともよくわかった。鎌倉殿の十三人でなんとなく名前は知っていた人物たちも、立体的に浮き上がって捉えることができるようになった。宇都宮蓮生がまたいい味出している。坂東武者でありつつ京の文化も理解しながら、いろんな人のアイディアを踏まえて独自の文化というか趣向のようなものを造りだしているところ尊敬
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ネタバレ圧倒された。
戦争の、それも広島での子供時代
儚い恋
軍人の父親の死
被爆者としての生活、家族
たくさんの物事が切々と描かれていて
つらいけど、悲しいけど、
生きていくんだと、顔をあげる
ネタバレになるのだけど、
気持ちにグサッとくる一部を。。。
生きる、ということは、
わしはいままでええことじゃと思っておったが、
どうやらそうでもないらしい。
それはええことではなく、
むしろ、後ろめたいということばのほうに
近いものであることを亮輔は知った。
そして、同時に、それがどんなに後ろめたくても、
つらくても、なにがあろうとも、
ぜったいに自分から手放してはならぬものであることを知った。
なにが -
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藤原定家の一代記。和歌といえば百人一首、百人一首といえば定家というくらいの有名人、華々しい人生かと思いきや、本作の定家は才能はあるものの華やかさとは程遠い、努力の人という感じ。実際はどうだったのか分からないが、和歌だけで位を上げたいという意志の強さと京文化への誇りが気持ち良い。後鳥羽院の鎌倉府への怒りの過程も丁寧に描いていてその点も興味深かった。
また、隆家との対比も良い。感覚の隆家と理論の定家。両方が併存しうるのも和歌の素晴らしさであるし、私は定家の考え方に共感するので、過去の良作に触れることの大切さを感じた。
ただ賛否が分かれるであろう、後鳥羽院・定家・隆家の恋の三角関係。確かにこの -
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この本で言う「古代史」の範囲は、何らかの文書に記録が残っているところから始まり、奈良時代の終わりまで。
年代順にテーマを決めた章ごとに、時代のあらましと、どんな記録があって(簡単に)、どういった見方がされているか、または論争があるかの説明。
具体的に作品を取り上げ、歴史的事件や人物をどう見て、どの学説を採用しているか、またはその作家なりのどんなオリジナル視点を入れているかなどを解説する。
そして、その時代について、周防さんがどの見方を押しているか、どう考えているかを記してまとめている。
と言う、スッキリしてとてもわかりやすい作り。
個人的には、欽明天皇くらいになって、「やっと知ってる人来たー -
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ネタバレこの物語の分岐点は希恵の娘が死産(もしくは、そして恐らくは福子によっての窒息死)したことの様に思う。もし、この子がいれば亮輔にとっては妹、希恵は本物の妾になった。とてもじゃないが、求婚など出来なかっただろう。
それにしても、希恵は幼い。妾になったのにも関わらず、その息子と結婚することが可能であり、それを囲っている強が受け入れると信じて疑わない。彼女の言葉を借りれば「なりたくてなったんじゃない」からなのだろうが、甘い話だ。敗戦で強の心が壊れた状態で希恵を奪い合うことになったら、後味が悪い。臭い物に蓋、である。
男性は生涯少年の様なものだと誰かが書いていたが、それを象徴するかの様な小説だった。 -
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戦争を題材としたものは気分が落ち込む哀しい結末しかない物ばかりなので少し苦手でタイトルからは違うタイプを想像していたので、あれ?と期待を裏切られたスタートだった。
死を前にした被爆者の主人公が子供の頃の初恋を回想するが戦時中で今とは全く違う。
出征中にやってきた年若い父の愛人と後妻の母とまだ学生の主人公。
昆虫好きから心を通わせた2人の淡い恋。
無惨にも原爆が散らせてしまった。
主人公が自身の被爆体験を語りたくない思いを娘の学校の先生と言い争う場面でハッとした。
確かに原爆を忘れないために語り継がなくてはいけないとよく言われるが、それは体験していない者の意見であって当事者にしてみれば隠して死に -
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読みづらい文体だというわけではないのに、思いのほか読むのに時間を要しました。ひとつには、偵察機のシーンには興味が持てなかったからということもありますが、そのシーンも含めてとても丁寧に書かれているゆえ、丁寧に読まなければならないような気がしたからです。
死期迫って自宅に戻った老人の少年時代の思い出。初恋の相手は父親の若き愛人。当の父親は出征して、母と子、愛人とばあやで暮らすという特異な家庭環境にありながら、各々が各々の存在を認めていたことがわかります。
あまりに瑞々しいシーンの後の被爆シーン。そのギャップに打ちのめされました。まるで合唱組曲『チコタン』だけど、心安らかに三途の川を渡れたならば