本書の前段は、いかにアメリカが土地として、つまり地政学的に「俺TUEEE」なのかということを説いており、ちょっとトンデモ臭も。ただし「アメリカ人」ではなく「アメリカの地形」が、ということなので、そこは混同しないように注意が必要。
だが、アメリカ最強伝説はともかく、本書で書かれているロシアについての
...続きを読む言及は、今日のウクライナ侵攻をバッチリ予言している。
「ロシアに行動を起こす力があるのは、せいぜいあと8年が限界だ。」(P267)
本書は原書で2014年刊行なので、「せいぜいあと8年」の期限とは2022年なのだ。そして、ここで言及されている力とはロシア国内の人口動態に基づくもので、説得力がある。
「ロシアには国境にいくつものあいた口をすべて塞ぐ力はおそらくないだろう。従って優先順位を決めなければならない。この国が少しでも長く存在し続けるためには、次の順で行動するのが最も望ましいと思われる。ロシアにとって唯一かつ最大の不安要素、それはウクライナだ。」(P267)
「(ロシアは)ロシア系住民の多い東部と南部の『助けを求める声』に応じて『救援』活動を始めるに違いない。」(P272)
と続く。大した洞察だ。
ここで2点ほど疑問が生じる。
1. なぜ、本書がクローズアップされないのか?
少なくとも東洋経済新報社の編集担当者は、本書の価値をもっと喧伝してよいと思うのだが、なぜ、やらないのだろう?「8年前にロシアのウクライナ侵攻を的確に予言!」という感じの帯つけて、週刊東洋経済でもちょっとキャンペーン的な宣伝をやれば、かなり売れると思うし、それにより、今日のウクライナ問題に対して、ステレオタイプでない視点を獲得する人が増えると思う。
2. なぜ、本書のような議論・切り口がメディアでは見受けられない?
自分の勉強不足かも知れないが、本書のような視点でロシアの侵攻を説明しようとする議論をマスメディアで見たことがない。地政学的な視点のものがあるとすれば、せいぜいNATOの東方拡大にプーチンがキレたというものぐらいで、後はロシア帝国の復権を夢見ているだとか、単なる領土的野心を自己の権力保持のために乱心して実行したが、誰も諌める者が周囲にいないなど、見てきたような憶測ばかり。それほど本書の分析が唯一無二の珠玉ということなのだろうか。
【由来】
・東洋経済2018/03/26