山中恒のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
いやスゴイ。圧倒された。ハンマーで殴られたような読後感。元々は1976年刊行の作品(初版は1969年らしい)。それをアニメ風の挿絵+ふりがな付で2012年に再刊されたバージョンを読んだのだが、オリジナルの持つ強靭さでしょう、どんな味付けをされてもゆるがない核がある。かえってこうした装飾のおかげで現代の子どもが手に取りやすくなっているなら、それは成功と言える。読まれたら作品の勝ちだもの。
ここしばらく「最近の子ども」を描いた本を中心に読んでいたので、秀一の、内にこもったりクヨクヨしたりせずにがむしゃらに進んでいく姿に圧倒された。といっても秀一はヒーローではなく、成績も悪い(平均3なので悪くないのだけど)、家族から馬鹿にされている男の子だ。ただそういう劣等感のような、やりきれない気持ちのようなものがふつふつとしていたのが、家出の経験をきっかけに、それを原動力に「自分の意思」で行動するようになる。
白眉は夏代宛ての手紙を盗んだのが母親であることを知った時に戻してしまった場面だろう。秀一には大切な手紙でそれを盗んだのは正直だと思い、徹底的に調べ上げるつもりが、母親だったときの衝撃。ありとあらゆる感情が一気に湧き出て、同時に全身の血の気が引いたようになったのだろう。登場人物は皆、感情豊か、表現豊かだが、この緊迫した場面が本当にすごい。
家族のこと、家出先の老人のこと、夏代のこと、秀一には背負いきれないくらいの事件・出来事が満載。最後の火事に、「岸辺のアルバム」を思い出したのだけど、この時代はそういう時代だったのかもしれない。
「ぼくがぼくであること」を激しく主張した作品。シュトゥルム・ウント・ドラング疾風怒濤という言葉を思い出した。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本書は学研「小学六年の学習」で昭和42年に連載された作品がベースとなった児童文学作品です。主人公は夏休みに家出した小学6年生の成長ぶりをリアルな親子の関係性を軸に綴られていく、およそ児童文学らしくない硬派な内容が特徴です。
5人兄弟の中で唯一無気力で要領の悪い秀一は、事ある毎に母親から叱られる。2人の兄と姉は優等生で、妹は毎度母親に告げ口のご注進。そんな秀一がプチ家出をきっかけに少しづつ大人になっていき、一見平和だった家庭に亀裂が…。
解説の尾崎秀樹氏「作者は本書で、現代の家庭教育のあり方を批判すると同時に、子供が子供であることの意味を探り、その問題を読者に投げかけている」
出来れば、親子で読むべき秀作です。ヘタウマな挿し絵は永田力氏。 -
Posted by ブクログ
転校してきた女の子一美は、主人公の一夫の幼なじみ。その二人がふとしたことで、体と心がいれかわってしまう。男が女になり、女が男になったときに世間がどう変わるかを考えただけでも面白いが、それが自分のよく知っている相手だとさらになにが生まれるのか。原作は1979年、今から30年も前の作品、作者はなんとあの『ボクラ小国民』の山中恒である。当時はまだ今のようにジェンダー論が盛んでなかったろうから、男と女の役割のようなものを、入れ替わった二人が感じることになるのだが、今だと、もっと違ったものになったかもしれない。その意味で、この作品をリメイクした映画『転校生』第二弾はちょっとレトロ調でもの足りない部分もあった。