ある朝に、女性になってみたらどんなに素晴らしいかという思いを持った男の回想録。そうした思いに病気のさまざまな症状が重なった結果、異様な妄想世界が作り上げられている。彼は今でいう統合失調症と診断されてはいたものの、しかし現にこれだけまとまりのあるものを理性的に書きあげている点で正常であると言える。(実際に裁判でも、この手記を基に禁治産者宣告が解除されている。)
彼は本当は正常なのか、それとも異常なのか。そうした正常と異常の境界を問う格好の材料となる書物であり、理性的なものを強く打ち建てようとする西洋思想の中でも重要な書物。