スラヴォイ・ジジェクのレビュー一覧
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ネタバレ奇を衒ったレトリック、飛躍と逸脱、アイロニーに貫かれたアクロバティックな論理のひとだと思っていたジジェクが驚くほどまともなことを書いていることに驚かされる。それだけこの世界が常軌を逸しているということなのか。本書後半の「テクノ・ポピュリズム」にかんする言及は、まさに日本における「チームみらい」的な政治勢力が登場する的確な説明となっている。
表紙にスパナと麦とペンを握る3つの拳が書き込まれた赤いシャツを着て写るジジェクは、「グローバル資本主義」という真の敵を見誤ってはならない、そのためにはウクライナの嘘や間違いを果敢に批判しつつ、断固としてウクライナの側に立たなければならない、と繰り返し主張する。なんとか現在のライフスタイルを維持しながら「秩序」を回復させようという怠惰を乗りこえ、プーチンがヨーロッパに作り出そうとした困窮を逆手にとって、生態系壊滅の危機を防ぐ生のあり方と、旧植民地諸国に対する真摯な謝罪を通じたヨーロッパの道義の新たな水準を目指すべきである、そのための「戦時共産主義」なのだ、というのが本書の立場である。
ここは議論が分かれるところだろうが、ジジェクはポリティカリー・コレクトな自由主義左派はアイデンティティという副次的な矛盾にかかずらわって、実質的な社会関係を変えずに道徳的な権威を保持し続けようとしている点で、「ニセの目覚め」の中でまどろんでいると厳しく批判する。ジジェクからすれば、「ウォーク」左派は、主要な矛盾から目を背け、「ほんとうには変わらない」ために行動していることになる。
上記の分析の当否に加え、本書のスタンスを推せば、イスラエルのガザ侵攻はさらに厳しく批難せねばばならないと思われるが(原著は2023年刊行)、果たしてジジェクは現在のイスラエルの蛮行にどんな言葉を投げかけているのか。 -
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進歩主義を疑う視点を身につけられる。
様々な思想は、良い面もあれば。欠点もある。どれだけ素晴らしいものでも、その性質があるが故に、陥る穴がある。そして、その弱点は、その思想が見落としている側面による。
ファシズム系の展望には保守的な近代化がある。伝統的イデオロギーが出てくると厄介
科学が環境問題を生み出しているが、科学を捨てて問題解決はない
地球工学という考え方があるが、地球規模の協調が必要
大文字をうたがうさいには、ソクラテスに帰れ
右派ポピュリズムの悪循環もきりがはれるときがある
既存の枠内では、運命が予め決まっているかのように見えるが、それでもこの枠組みを変えることはできる。
→今の枠組みを運命と受け入れ、その中でその枠組みを成立させている前提要素を変えていく
ユーモアの力が世界を変える
やはり、ユーモアが大切だ。今の世の危機的な状況の中で、どうあるべきか、何をするかの示唆を得た。それにしても、著者かFF7を引き合いいに出して説明していることに驚く。結果、私はスマホ版のFF7を買いました^_^
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世界は目まぐるしく動いており、これまで感じた時間の流れがゆっくりに感じるくらい、今のそれは激流にも等しく感じる。従来からある行きすぎた資本主義とそれにより一層顕著になる貧困の問題。過度の(地球資源が抱えることのできる人間の数に対して)人口増加、そしてそれが引き起こす食糧や資源配分の問題。人間が地球を破壊に導くような極端な経済活動は、地球環境の害悪となり気温の上昇やこれまでに無い気候変動を引き起こす。富めるものが富を独占し、上位10%が富の75%を所有、下位50%は僅か2%しか所有できないような二極化する世界。それら問題に対する解答を出せるか、近年技術進歩が、シンギュラリティを超え、一年経てば全く別次元へと進化し続けるAI。労働の在り方や社会の構造までをも変化させている。更には人類のあらゆる問題を解決に導くとされる量子コンピュータの実用化に向けた各国の技術競争。過去に人類が技術進化を遂げるために重要な契機となってきたのは、戦争とそれに利用される軍事技術の開発であった事は言うまでも無いが、ロシアによるウクライナ侵攻は、正にドローンを始めとする無人兵器の躍進だ。かねてよりそうなる事は予想されてきたが、ドローンは各国の軍隊のあり方を著しく変化させた。
少し前に中国で行われたロボット技術を競う大会の映像を見たが、数年前にぎこちない動きで笑いを誘ったような人型ロボットは、人間の動きに近い滑らかでかつ人間よりも機敏に正確な動きを疲れもせずに続けることができるようになった。AIとの組み合わせで、自律的に考え行動するロボット達が、人間が行ってきた労働の一部を既に代替し始めている。確かにこの流れが加速すると、戦争で血を流す人間も居なくなるかもしれない。それと同時に技術的な優位性のみで国家間の対立は勝敗が決まるようになっていくだろう。
本書はこうした現代の最新の世界の情勢を、各国の著名な学者、研究者などへインタビューし、これまで通用した常識から新常識へと転換する瞬間を捉えたような作品だ。そのインタビューの質問にはある共通の質問が含まれる。それはアメリカのトランプ大統領の存在に関連するものだ。毎日、世界中のトップがトランプ氏一挙手一投足に注目する。先が読めない動きに対応せざるを得ない各国のリーダー達の心労も察せられる。インタビューに回答する世界の頭脳達がこのトランプ氏をどう見ているのか。大凡答えは予想できるのであるが、それぞれの専門領域からの考察は興味深い。
そして母なる地球「水の惑星」の水にまつわる問題や課題で本書は幕を閉じるのであるが、前述したような技術革新は地球外への水の探査機に向けられていく。人類が水を手に入れ水を欲しいままに使ってきたこれまでの歴史。人口が増え続け、食糧だけでなく水を奪い合う未来が見え隠れする。火星に水の痕跡を探し求めるなど、人類は常に水を探して、その勢力範囲、領域を拡大してきた歴史が示すように、水の惑星を飛び出して、最早宇宙空間も自由に行き交う時代に突入した。私が人生の幕を下ろすまで、地球は持ちこたえていて欲しいが、その時社会は一体どうなっているのだろうか。30年前には想像つかなかった今。更に30年先は益々想像できないものになっているだろう。本書は先ずは今の最新の常識に触れていく良い機会になる。 -
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もはや自由民主主義では気候変動とAIの危機に対抗できないので新たな仕組みを作らなければならないと言うスラヴォイ・ジジェク。
神の見えざる手などという嘘に踊らされて完全な自由に任せていては取り返しがつかないことが起こる(実際に起きている)と警鐘を鳴らすジョセフ・E・スティグリッツ。
西洋の白人にとっての移民問題の深刻さを主張し日本も移民に関して受け入れるか否かの問いに真剣に向き合うべきというエリック・カウフマン。
資本主義は民主主義的ではなく、何を作り何を作らないのかを一部の富裕層が勝手に決めているだけで
、社会と環境のために何を作るべきかを人々が決めるようにシステムを変えるべきというジェイソン・ヒッケル。
現在の西洋の台頭は必然でも安定的な状態でもなく、単に一夫一婦制といとこ婚を西方協会が禁じたことによって血縁が薄れ結果として産業革命がうまくいっただけの一時的な状態に過ぎないと看破するジョセフ・ヘンリック。
世界は多極化しており、これから人々は命の経済と死の経済のいずれかを選択しなければならないと説くジャック・アタリ。
量子コンピュータの夢(ガン撲滅、老化撲滅、太陽フレア予測 等)を語るミチオ・カク。
水の惑星においては水のネットワークを意識して維持しなければならないと説くジェレミー・リフキン。
博識の知性たちのインタビューは興奮と気付きがたくさんあった。
星4つ。 -
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定期的に読みたくなる種類の新書。最新状況の確認というか、自分の認識のアップデートとしてのルーティンみたいなもの。世界の知性と言われ、リーダーたちのメンターとしても一目置かれている方々。哲学、経済学、人口学、物理学などの各分野から、社会や政治、技術がどうなっているかを解説してくれている。共通しているのは、「現代」が将来から見たときに、分岐点だったと言われる時代ではないかということ。民主主義、資本主義、宗教などの変化や、AIの台頭などで、過去100年より驚異的なスピードで格差が広がっているということ。もう一つは、フラット化しつつあるにもかかわらず多くの国々が独自の価値観をより重視し、配慮なく振る舞う傾向が強まっていること。ある点では手を握るが、別の点では激しく対立する、などが表面化している。日本の外交は、良くも悪くも曖昧戦略と言われるが、このようなご時世、案外これは生存戦略としては効いてくるのかもしれない。
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イアン・ブルマと並行して読んでいると、ジジェクの言う「メビウスの輪」というのが実感できる。植民地主義への批判は真っ当だが、ポストコロニアルの現地の政府が横暴な専制、暴政を行う。「悪手かより悪い手か(前門の虎、後門の狼)という選択しかないように見える」。なるほど。惨事の脅威に立ち向かうよう求められている現代、同時に「管理された世界の一見正常な構造やリズムこそが究極の惨事であるという点を念頭に置く必要もある」と。
人類が目指しうる唯一の疑いなき「進歩的」目標は単純な生存なのだ、というのは深く納得。
ソクラテス革命が必要。詭弁家(ソフィスト)たちが演じる空虚な詐術がポリス(都市国家)の伝統をもっとも悪いものにしていた時、ソクラテスは栄光への回帰ではなく、深い自己反省を対置してみせた。「~と言う時、あなたは具体的に何を意味しているのか」という定式を際限なく繰り返していく。これは現代にも有用だ。あいまいな言説に煙に巻かれていると感じる時、一つひとつ自分の頭で考え、定義することは、時間はかかっても「理解」のために必要不可欠なことだと思う。
フランスの国民戦線の脱悪魔化が“パパルペン”より更に悪いこと、左派の偽善、悪循環。何となく肌で感じていることを端からきれいに並べてくれている。 -
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ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのヨルダン川西岸に対する姿勢に対する、西側諸国の欺瞞。抗議しているように見せかけて、内心現状肯定、現状を存続させることを願っているというウォークネスの偽善的態度を喝破している。
アメリカやヨーロッパの新右派がウクライナ支持を躊躇、これがロシアの姿勢を反映しているように見えるのは不思議ではない、両者はグローバル文化戦争の同じ側、二つのバージョンだという説明も分かりやすい。だからこれを機に、軍事行動だけでなく、生態系破壊の危機を防ぐような暮らし方に切り替え、旧植民地諸国に借りがあることを認めるべきだ、と。
アサンジは、自由を脅かす最も危険な脅威は公の公権力からもたらされるのではなく、我々が自由を束縛されている状態を自由と認識した時に生じることを明らかにした、という分析も、現代の”利便性”にどっぶり浸かって生きている人間としては耳が痛いけれど、でもその通りだと思う。 -
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初ジジェク。論じられている内容が難しいというより、ジジェク本人の思考の流れが独特でついていくのが大変。
ラカンを読解、解釈に多く紙面を使っているが、それと同じ程度に重要なのがヘーゲル。
自分も精神現象学をある種の個体が流動的に延々と生成変化していくそのプロセスそのものの味わいと哲学的洞察に惹かれたが、ジジェクからも同じ匂いを感じる。
ヘーゲルの精神現象学は有名な話だが、本人が試行錯誤を通してなんとか形にした、みたいな本で、その内容も個体が普遍にまで行き着く一つのプロセスを開示してるわけだが、その終着点含め、うまい具合に折り目をつけるための付属品、みたいに勝手におもってる。 -
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ネタバレ難しいテーマは丸々1冊だと読み切れないけど、インタビュー形式で読みやすい。
人口動態が変わっていわゆる白人中心・優位な時代が終わりつつあり、多極化やトランプ政権など国際政治の状況も様変わりで、価値観や政治が不安定化している、という現状分析が多かったかと。世界がどこにどう向かうのか、帯の「「常識」の時代は終わった。「力が正義」の時代が始まる」は暗澹とするけど、ある程度ニューノーマルとして現実を認識する必要はあるのだろうな。
興味深かったのは、ジョセフ・ヘンリック(人類学者)のパート。
・WEIRD(西洋の、教育水準の高い、工業化された、裕福な、民主主義の)な特性(個人主義、他人への信頼、傾向性主義、分析的思考)は世界的には少数派。
・日本人や韓国人は欧米化著しいかと思いきや、相手との関係性によって態度を変える。
・宗教の中でも西方教会がいとこ婚を禁じたことで、氏族社会が解体。親族ベース制度から一夫一婦制の核家族→人が移動しやすくなったり、血縁以外の共同体が生まれたりして、ヨーロッパの発展・産業革命の基礎となった。
・「子ども時代に引っ越しを繰り返した若者は、友人と初対面の相手をあまり分け隔てしなくなるという」←個人的に思い当たる。
量子コンピュータ(ミチオ・カク)の話は異色、そして難しい…
水が基礎インフラ(ジェレミー・リフキン)、これ最近よく聞くな。 -
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訳者によるとジジェク思想は次の3つの要素を柱としている。
1.哲学~ヘーゲルとラカンを筆頭に、カント、ハイデガー、マルクス、フロイトからの概念群が用いられる。西洋哲学の古典や近代哲学、ポストモダニズム思想の各潮流にも頻繁に言及がある。
2.時事~原稿執筆当時から1年以内くらいの範囲で起こった出来事が分析される。
3.文化~映画や音楽、小説や美術に加え、ジョークや政治、宗教や歴史を含む広義の文化が参照される。加えて、近年では量子物理学や進化生物学のような、自然科学の分野への言及、そして西洋以外(特にアジア)の文化や宗教への言及も増えてきた。
感想としては以下の通り。
・ヘーゲルやラカンに言及するが、説明なく出されてもその前提を理解できていない読者にはその論理なり解説のぜひがはんだんできない。
・斎藤幸平批判で江戸時代や仏教経済学を絡めるのは筋違い。
・映画の見方が表層的。
「シビル・ウォー」の難点として挙げているひとつは「中立的で「客観的」な報道というイデオロギーにどっぷり浸かったままだ」という点。果たしてそうか。自分にはそこも含めて描いていたように見えた。第2の難点として、内戦の起爆剤となった政治的分断が不明瞭な点(リベラルなカリフォルニア州と保守的なテキサス州の軍事同盟)を挙げている。これは映画を観た多くの人が感じており、自分もそうは思ったが、意図して制作したことは明白であり、敢えて難点に挙げることではないと思う。気になったのは、著者がこの同じ段落の中で、「軽い人種差別発言を除けば」と書いている部分で。ここは香港出身のジャーナリストが「チャイナか」と言われて射殺される場面で、決して軽い人種差別発言ではない。
また「Perfect Days」についても脱政治的な生き方として挙げているがそれを意図した作品ではない。
・量子物理学を歴史に適用しようとしている部分は無理があるし、かえって主張がわからなくなる。
・全体として、哲学の知識は豊富だが、自然科学の理解は表層的で、映画の見方も我田引水な印象。
【原題】Against Progress
【目次】
第1章 進歩、この波乱に満ちた概念
第2章「脱成長コミュニズム」は進歩か?
第3章 加速主義の基本的な弱点
第4章 ホログラフィックな歴史
第5章 人間は相対性の渦中にある
第6章 もっと悪いものにする
第7章 真の変革のための実践主義
第8章 忍び寄るアメリカ内戦
第9章 今は想像さえできない連帯のために
第10章 我々はバイオマスだ
第11章 世界の終わりはいかなるものか
第12章 破局は免れない、だから行動せよ -
Posted by ブクログ
世界の危機的現象「四騎士」(疫病・戦争・飢餓・死)により世界は壊滅へと動き出している、と言う。ロシアvsウクライナも双方に「平和維持の為の戦争」と言う理屈から多くの国民の死を伴っても未だ解決しない。それは「非合理的な欲望」が混載された状況で「権威主義」を捨てることができない国家が増えてきている所為でもある、と言う。スパイ行為、情報漏洩事件としてスノーデン、アサンジは国家の監視体制(我々全員が監視されている状況)を世の中に告発した例であり、歪められた「情報の透明性」は極めて難しい事と世に蔓延る怠慢な政治家が言う「真理・真実」とは真に受け入れがたい。その為には国民が「何もしない傍観者」ではなく、目覚め活動する力が必要だという。