あらすじ
今こそ世界の欺瞞に目を向けよ!
大規模気候変動、核戦争の危機、シンギュラリティの脅威、テクノ封建制……加速度的に発展しながら着実に破局へと突き進む人類は、本当に「進歩」しているのか? 無知と危機、怒りと陰謀が終わりなく循環し、明日も変わらぬ暮らしが続くことが人々の第一の関心事であるこの世界の本質を凝視せよ!世界を代表する現代思想の奇才が、加速主義から斎藤幸平の脱成長コミュニズム、映画『シビル・ウォー』や『PERFECT DAYS』までをも縦横無尽に議論の俎上に載せながら、これまで「進歩」の概念が覆い隠してきた欺瞞を暴き、地球規模の惨事に備えるための新たな連帯を構想する!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
進歩主義を疑う視点を身につけられる。
様々な思想は、良い面もあれば。欠点もある。どれだけ素晴らしいものでも、その性質があるが故に、陥る穴がある。そして、その弱点は、その思想が見落としている側面による。
ファシズム系の展望には保守的な近代化がある。伝統的イデオロギーが出てくると厄介
科学が環境問題を生み出しているが、科学を捨てて問題解決はない
地球工学という考え方があるが、地球規模の協調が必要
大文字をうたがうさいには、ソクラテスに帰れ
右派ポピュリズムの悪循環もきりがはれるときがある
既存の枠内では、運命が予め決まっているかのように見えるが、それでもこの枠組みを変えることはできる。
→今の枠組みを運命と受け入れ、その中でその枠組みを成立させている前提要素を変えていく
ユーモアの力が世界を変える
やはり、ユーモアが大切だ。今の世の危機的な状況の中で、どうあるべきか、何をするかの示唆を得た。それにしても、著者かFF7を引き合いいに出して説明していることに驚く。結果、私はスマホ版のFF7を買いました^_^
Posted by ブクログ
ジジェクの時事的な文章を集めたもの。アジテーション的な文章のため、訳者も言及しているようにところどころ危うい解釈も入り混じる。特にいまさら量子力学的な解釈に寄りかかって比喩的に使う必要なんてないだろうに。まあそんなことは委細構わず突き進む強さがジジェクの文章にはあり、稀代のアジテーターだけあるという感じ。特に最終章の否認の概念には共感できるところがあり、ダメかもしれないと思いつつも変えるべく動くという考え方はいま求められている思想なんだと思う。
その他、多くの新しい思想にも言及されていてその意味でもいい紹介になっている。
Posted by ブクログ
イアン・ブルマと並行して読んでいると、ジジェクの言う「メビウスの輪」というのが実感できる。植民地主義への批判は真っ当だが、ポストコロニアルの現地の政府が横暴な専制、暴政を行う。「悪手かより悪い手か(前門の虎、後門の狼)という選択しかないように見える」。なるほど。惨事の脅威に立ち向かうよう求められている現代、同時に「管理された世界の一見正常な構造やリズムこそが究極の惨事であるという点を念頭に置く必要もある」と。
人類が目指しうる唯一の疑いなき「進歩的」目標は単純な生存なのだ、というのは深く納得。
ソクラテス革命が必要。詭弁家(ソフィスト)たちが演じる空虚な詐術がポリス(都市国家)の伝統をもっとも悪いものにしていた時、ソクラテスは栄光への回帰ではなく、深い自己反省を対置してみせた。「~と言う時、あなたは具体的に何を意味しているのか」という定式を際限なく繰り返していく。これは現代にも有用だ。あいまいな言説に煙に巻かれていると感じる時、一つひとつ自分の頭で考え、定義することは、時間はかかっても「理解」のために必要不可欠なことだと思う。
フランスの国民戦線の脱悪魔化が“パパルペン”より更に悪いこと、左派の偽善、悪循環。何となく肌で感じていることを端からきれいに並べてくれている。
Posted by ブクログ
訳者によるとジジェク思想は次の3つの要素を柱としている。
1.哲学~ヘーゲルとラカンを筆頭に、カント、ハイデガー、マルクス、フロイトからの概念群が用いられる。西洋哲学の古典や近代哲学、ポストモダニズム思想の各潮流にも頻繁に言及がある。
2.時事~原稿執筆当時から1年以内くらいの範囲で起こった出来事が分析される。
3.文化~映画や音楽、小説や美術に加え、ジョークや政治、宗教や歴史を含む広義の文化が参照される。加えて、近年では量子物理学や進化生物学のような、自然科学の分野への言及、そして西洋以外(特にアジア)の文化や宗教への言及も増えてきた。
感想としては以下の通り。
・ヘーゲルやラカンに言及するが、説明なく出されてもその前提を理解できていない読者にはその論理なり解説のぜひがはんだんできない。
・斎藤幸平批判で江戸時代や仏教経済学を絡めるのは筋違い。
・映画の見方が表層的。
「シビル・ウォー」の難点として挙げているひとつは「中立的で「客観的」な報道というイデオロギーにどっぷり浸かったままだ」という点。果たしてそうか。自分にはそこも含めて描いていたように見えた。第2の難点として、内戦の起爆剤となった政治的分断が不明瞭な点(リベラルなカリフォルニア州と保守的なテキサス州の軍事同盟)を挙げている。これは映画を観た多くの人が感じており、自分もそうは思ったが、意図して制作したことは明白であり、敢えて難点に挙げることではないと思う。気になったのは、著者がこの同じ段落の中で、「軽い人種差別発言を除けば」と書いている部分で。ここは香港出身のジャーナリストが「チャイナか」と言われて射殺される場面で、決して軽い人種差別発言ではない。
また「Perfect Days」についても脱政治的な生き方として挙げているがそれを意図した作品ではない。
・量子物理学を歴史に適用しようとしている部分は無理があるし、かえって主張がわからなくなる。
・全体として、哲学の知識は豊富だが、自然科学の理解は表層的で、映画の見方も我田引水な印象。
【原題】Against Progress
【目次】
第1章 進歩、この波乱に満ちた概念
第2章「脱成長コミュニズム」は進歩か?
第3章 加速主義の基本的な弱点
第4章 ホログラフィックな歴史
第5章 人間は相対性の渦中にある
第6章 もっと悪いものにする
第7章 真の変革のための実践主義
第8章 忍び寄るアメリカ内戦
第9章 今は想像さえできない連帯のために
第10章 我々はバイオマスだ
第11章 世界の終わりはいかなるものか
第12章 破局は免れない、だから行動せよ