河上邦彦のレビュー一覧

  • 飛鳥を掘る

    Posted by ブクログ

    飛鳥というと、点在する「謎の石」や古墳のイメージが先に立つが、本書が面白いのは、それらを"用途不明の遺物"で終わらせず、「石と水で組み上げられた都のシステム」として編み直しているところ。石造物は移動・転用で文脈を失いがちだが、酒船石を占い遊興施設として読む仮説を置くと、宮廷の快楽と呪術が同じ空間で呼吸し始める。さらに、飛鳥京苑池(白錦後苑)や嶋宮を「見世物の庭園」にとどめず、生産・備蓄も抱えた禁苑として捉えることで、政治・経済・儀礼が一本化され、都が"運用されている感じ"が立つ。

    また、石溝がゴミ処理・トイレ・防火・冷却まで担う多目的インフラだという指摘は、都市を生き物として描きたい創作に刺さる。天智まわりでは、水落遺跡(漏刻)を「技術導入」以上に"時間支配の政治"として使えるのが強い。

    通説と異説が併記される論点整理も、作中で「誰がどの説明を信じ、何のために利用するか」という対立に転化しやすい。断定より揺れを武器にしたい人、遺跡を「背景」ではなく「演出装置」にしたい歴史創作者におすすめ。文献の固有名詞が地層と石材で"現場化"される快感を、存分に味わえる一冊。

    0
    2025年12月23日