福島第一原子力発電所の事故について調査報道を続けているNHK
スペシャルだが、本書については少々まとまりが悪いかなと感じた。
全電源喪失の状態から原子炉の冷却を続ける為に取られた海水注入。
しかし、事故の陣頭指揮にあたった福島第一原発の吉田所長も本当
に1号機の原子炉に海水が十分に注入されているかには早い段階で
疑問を抱いていた。
事故当時、日々報道される福島第一の状況を見ていても、いくら水を
入れても満水にならないのはどこかで漏れているのではないか?と
素人でさえ思っていた。
唯一、電源がなくても原子炉を冷却できる非常用冷却装置イソコンが
起動していなかったこと。また、イソコンが起動した際の排気口から
排出される蒸気がどのような状態なのかの実際の訓練をしたことの
ない運転員。
そして、次々に起こる緊急事態への対応・判断が吉田所長ひとりに集中
した結果の、極限的な疲労。複合的な結果だと思うんだよね。
NHKでは東京電力のテレビ会議の模様をAIに解析させているけれど、
吉田所長だけではなく、最前線で事故を最小限に抑えようとしていた
現場の人たちは、誰もがみな持てる知識と力を存分に使って、極限状態に
置かれていた。原子炉の暴走が止められなければ、真っ先に命を落とす
ことになったのは彼らだったのだから。
本書では1号機の中央制御室と免振重要棟の間で十分な情報の共有が出来
ていないことを挙げている。ただ、それに「失敗の本質」を求めるのは
どうだろうかと感じた。
あの事故を検証することは大切だと思う。しかし、その事故に至るまで
日本の原子力発電所では過酷事故は起こらないとし、全電源喪失の可能性
までを否定して来たことから検証しなければならないのではないか。
「原発は安全です。クリーンです」。この原発安全神話を信仰して来た
結果が、あの過酷事故ではなかったかと、原発事故関連の作品を読むたび
に私はそこへ戻ってしまうんだよな。