水田陽のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
これまで戦争屋と言える相手と戦ってきただけに、あくまでも学園の生徒でしか無い今回の敵はちょっと特別感を覚えたな
京四郎と違って軍事の世界に身を置くわけではない柳がどこに居たかといえば、才能を愛する五才星学園。けれど学園という枠に収まらない暴力的な才能は学園において彼をあぶれ者としてしまう。結果、己の才能を正しく使う事が出来ずに居る
そのような存在が敵と成るこの巻だからこそ、キーヒロインとなるのも才能に敗北した宮古となってくるのだろうね
宮古も才能を持つ側の人間だけれど、これまでキーヒロインと成った紗衣や風香とはまた趣の異なるタイプ。2人が自分の才能と直面し、その才能が示す道で戦っていたり振り回されていたりするのに対し、宮古が能力を発揮しようとする方面は才能とは別方向。彼女は己の才能から逃げていると言える
才能ある者が己の才能を他者より高めようと切磋琢磨する五才星学園にて、己の才能から目を逸らそうとしている。それが為に宮古と柳が同類であると見えてくる
ならば戦う事しか取り柄がない京四郎が二人と向き合う上で何が出来るのかという点が今回の主題だったのかな
これまでの事件が彼に響いたのか、京四郎は無闇に自分を大きく見せようとしなくなったね。情けない自分もありのままの自分も直視して、それでも戦う事を選んでいる。戦いしか出来ないと諦めるのではなく、己は戦えるのだと道を選んでいる
それは己の才能を直視できない宮古や柳とは決定的に異なる姿
京四郎は己の才能、戦闘能力を用いて学園を守ろうとする。対する宮古や柳は鏡面のように学園を壊そうとする。それはまるであの学園に対する愛憎の違いを反映しているかのよう
柳相手であれば、京四郎は戦う力を用いて制圧して柳の望みを打ち砕いてやるのだって造作はない。けれど、宮古相手にそれは許されないね。何故なら京四郎にとって愛する学園とは施設の話ではなく、そこに通う生徒を含めた話であり、友だちになった宮古をも含むのだから
そう考えると、京四郎にとって対立する柳すら守る相手という話になってくるね。京四郎が父親相手に語った武装した不良生徒達を撃たなかった理由に深みが増す気がするよ
柳率いる不良達は確実に一線を越えている。けれど、そんな相手だって学園の生徒であるならば、彼らを撃ち殺してしまえば学園の平和は乱れてしまう。それは京四郎の守り方ではないわけだ
なら京四郎と宮古の相性が早い段階から悪かったのは当然なのかもしれない
京四郎が周囲の多くを守ろうとする存在ならば、宮古は己を含めて全てを壊そうとする存在。彼女のやろうとしている事と京四郎の目指す道は反目する
ただ、宮古は京四郎程には徹底した人間には成れなかったのは救いなのかな。というより、才能に絶望しても夢を諦められなかった彼女は己が掲げた目的さえ完遂できる程の強さも無かった
才能を破壊する為に誰を傷付けても構わないと成り下がった柳とは違う彼女だから、京四郎は彼女と寄り添えるし、彼女の甘さに付け込んで彼女を守ると宣誓できる
それは何よりも意固地になっていた宮古の心を解きほぐすものだね
でも、それによって宮古の方向性が完全に様変わりするなんて思わなかったけども。一瞬にして恋する少女になっちゃったよ、どうするのよあれ……。ただ、あれはあれでとても高校生らしい青春に満ちた心変わりであったように思えるよ
京四郎のすべき事に迷いはなく、宮古も才能に苦しんだ己から脱却する道を選べた
ならば、後は気持ち良く敵を倒すだけ。だからって、柳とタイマン張るなんて思わなかったけどね
傭兵の京四郎であるならば決して採らない戦い方。あのような泥臭い根性の比べ合いをしたのは京四郎があの学園で普通の学生らしさを手に入れたからなのだろうと思うと感慨深い
でも、傭兵としての京四郎を失ったわけでもないから、普通の学生らしさからあぶれてしまった柳に傭兵の道を紹介できたのだろうな…
エピローグは勝利の報酬として特別な非日常が描かれるのではなく、在り来りな日常風景が
けれど、それこそが京四郎の手にしたかったものであり、これから宮古が藻掻きながら生きていく場所であり、また風香達と楽しく過ごしていける日常なのだろう
それは才能を競い合う学園らしくない光景かもしれないけれど、とんでもなく羨ましい学生生活なのだろうとも思える気持ちの良いラストでしたよ -
Posted by ブクログ
詠美ちゃん、前巻ラストで思わせ振りに顔見せした際は京四郎の平穏を完全無欠にぶち壊す巨悪に思えたけど、普通に良い人だこの人……!
約束は律儀に守るし、生徒達の安全だけでなく感情面も慮っている。裏取引は行いつつ、敗れても恨み節に走ったりもしない
こんな人に迷惑掛けるとか京四郎の方が悪人じゃん……
さておき、今回のメインとなるのは風香だね
第1巻登場時はふわふわした言動からその本性が掴み辛かった少女。1巻時点の情報で自分なりに彼女について解釈したつもりだったけど、この巻を読んでその思い違いを痛感させられたよ
この2巻はこちらの先入観をぶん殴ってくるかのような話だったね
コスフェスという学生の実力を試す場でありながら裏で進められていたのは政治的な取引。梶野等は何も知らされず用意されたシナリオだけを見て、その範疇でしか動く事を許されない人間
対して、京四郎や風香等の特別な能力を持つ人間は別枠。利用価値が有る彼らは誂えられた役割が有り、役割を全うする事を期待される。ただし、特別な人間だけにシナリオを壊す可能性を秘めている
京四郎は主人公としてその内面を詳らかにしてくれている。だから彼が詠美の策略に憤ってそのシナリオに叛逆の意思を示すのは納得できる
けれど、詠美を前にした風香は内面を容易に理解させてくれない。その上で詠美のシナリオも京四郎の配慮もぶち破る
それは彼女が持つ特異性が為せる業であるように思えてしまう。言葉少なな彼女は誰にも思い通りに動かすなど不可能な人間に見える
でも、そういった認識こそが間違いだと判ってくるのが後々の展開だね
謎の傭兵として学園に紛れ込んだ京四郎と誰より抜きん出た容姿を示す風香。二人の関係は京四郎がナイトとしてお姫様の風香を守る、それが当然の構図に見える
その関係を当たり前のものと思い込みすぎて、風香は何も出来ない何も判らないとまで思い始めていたのが京四郎と言えるのかな
そもそも本作って舞台そのものが特別なものだから、そこで他者より秀でた存在になるのは当たり前な状態になってしまっている。でも、問題なのが学園内でも才能の優劣が有るという点
京四郎の周囲には紗衣や白上や雪代みたいなのが居て、特別な筈だったのにそこに届かない梶野が劣っているみたいに映ってしまう。そして紗衣達は梶野の心情を理解してやれないし、梶野も紗衣達を理解出来ない
その環境で誰よりも特別な風格を持つ風香はそれこそ誰であっても理解できない孤高の存在に思えてしまっていた
でも、それは理解できないと理解したのではなく、理解を放棄しただけかも知れず
無理解の波に耐えられず漏れた彼女の心情は京四郎だけでなく読者の思い込みを殴ってくるものとなったね
特別だから、オーラが有るから。それは風香を一見した際の重要な部分かもしれないが、それで彼女の全てが判るわけではなく
あのシーンで風香が語った事に何も特別なんて含まれていなかったね。とても当たり前でどこにでも居る少女として当たり前の事を語っていた
そこで京四郎が示した反省は確かに風香を失望させたものかも知れないけど、同時に同じ世界の住人であると踏み込んでくれた京四郎に思う処はかなり有ったんじゃないかな
その後に行われたコスフェスでの風香の大暴れには目を見張るものがあったよ
彼女は特別になったのかも知れない。でも、彼女が自分の意志でその特異性を思う存分に使ったなら、それは特別だったというより実力を示したと表現した方が正しい
こういう人間だろうと思い込んで見ていた頃も彼女はとんでもない人間と認識していたけど、実力が発揮された事で意味でもとんでもないと思えたよ
陰謀も騒乱も有るけれど、賑やかな学園風景。だというのに、次巻では大変な事態になるようで。というより完結してしまうんだ… -
Posted by ブクログ
多弁さを介して自身の有能をひけらかす主人公、なんて導入を見た時はどういう感情を抱けば良いか判らなかったよ(笑)
自分は無能だと言いつつ世間的には超有能みたいなタイプよりかはマシかも知れないけど、鼻に付くレベルの才能を豪語する様に引かなかったと言えば嘘になる
だからこそ、そんな主人公・京四郎が父親への嫌がらせの為に自分の才能を腐らせるなんて展開には逆に興味を惹かれてしまったな
主人公は序盤からキャラが濃いし、舞台となる五才星学園も設定が濃い
それだけに次いで登場するヒロイン達の印象が弱いのではないかと一瞬思ってしまったほど
けれど、読み進める内に初見ではキャラが弱いと思えてしまう有り様にこそ彼女らの魅力の一端が詰まっていたのだと思い直せたよ
風香という人物は喋る言葉に意味が有るのか無いのかとても曖昧な人物。何と云うか雰囲気で喋っているという表現が最も適合しそうに思える
けれど、自分と紗衣達との違いを内外で例えた表現性には彼女が物事の本質を重要視しているのだと伝わってくる。ただ、伝達力が非常に低出力である為にそれが伝わりづらいというだけで
伝わりづらいという点では紗衣も同類かな
初登場時の暴言やキャンパスに向かう姿の乱雑さから彼女は人との交流を求めていないタイプかのように感じてしまう
けれど、後々の述懐で示されるように彼女の側こそ人との付き合い方や自分の在り方に悩んで自暴自棄に成りかけていた人物
こうした初見の印象と深堀りされた際の印象が全く異なってくる点はこの巻で登場した女性陣全員に対して言える事
だとしたら、京四郎とて同様と言えるのかも知れない
作者が後書きで不自由なコミュニケーションについて言及しているけれど、つまり本作は第一印象だけでは伝わってこない要素を何百ページも掛けて少しずつ理解していく物語なのかも知れないと思えたよ
そう考えると京四郎の圧倒的な人間的な強さは紗衣達が簡単には言葉に出来ない想いを引き出す為の仕掛けなのかもしれない
学園に入学した事で行き詰まり始めていた紗衣、もし京四郎と出会わなかったり今回の陰謀に巻き込まれなかったりしたら、きっと何も満足行く物なんて作れずに終わっていただろう
けれど、理不尽な陰謀の標的とされた上で京四郎が全ての夜空を塗り替えるような強さによって彼女に纏わり付いていた余分な言葉を拭い去って見せた
それは紗衣にとって間違いなく救いと言えるもの
また、学園に腐りに来たのに、紗衣や風香達との関わりによって京四郎自身の言葉にされていなかった想いも示されていたのは印象的
同年代とありふれた生活が出来なかった彼が求めていたものはなんて事のない代物だったわけだ
似たような点ではきっと宮古も京四郎との出会いによって明かすつもりの無かった想いが開かれてしまった一面は有るのだろうな。そちらはちょっとまだ見通せていない部分はあるだけに今後に期待してしまう
キャラの濃い主人公に設定の濃い舞台、その中で描かれる淡い想いの遣り取りに注目してしまう、良い作品であるように思えましたよ -
Posted by ブクログ
治安の非常に悪い、無法都市と化したロストマンズ・キャンプを舞台に繰り広げられる異能力とマフィアのアクション。
地の文がぎっしり。情景描写がとても繊細で、キャラクターの抱く葛藤や悩みなどが読んでいて分かる。またキャラクターに盛られた設定がとてもよかった。気配を殺すことが出来る異能力に、植物を金属状に変化させて戦う異能力など珍しさが目を引く。
キャラクター同士の掛け合いもよかった。まるで洋画を見ている雰囲気のある軽口の応酬。ああいう軽口の応酬が入るのは個人的には好み。言葉選びにはセンスがあるので見習いたいところではある。
ただ個人的に言えば、そう、これは感想だから言わせてもらうけれども、主人公が善人というか……悪党じゃないから何とも言えないけれど、復讐を望むなら「ぶち殺してやる」ぐらいの螺子の外れ方が見たかった。
いい子っぽいけど弱い部分もあって、けれどやっぱり芯の強い部分もある。素敵な子だと思う。私自身の好みではないけれど、作品的にはいい主人公だと思う。
あくまでこれは私自身の感想なので、あしからず。
治安が悪いなら殺人の1回や2回ぐらい起きてやくれねえかと思ったけれど、主人公は虫も殺さなさそうな人だから仕方がないね。
面白かったです。それは間違いない。