猫好きにお薦めの作品。キィという雌猫が出てくるのだが、その賢いこと、勇敢なこと、愛情深いことといったら、泣けるくらい。まさに猫母の鑑。
こういう作品を読むと、「大人になる」ということを考えさせられる。主人公のあつよしは小学3年生だが、今の中高生くらいの精神年齢ではないだろうか。姉と兄はそれぞれ中学2年と小学6年だが、精神的にも、労働力としても大人である。あつよしの弟・妹ははっきりと子ども。だから、食品を扱う店として(もちろん昭和30年代の田舎には避妊手術はない)猫の子を間引かねばならないことを理屈では理解しているものの、気持ちの上では絶対に嫌だと思っている。
大人と子供の間の時間の中で自己形成していく過程が鮮やかに描かれている。はじめは自己主張もせず、口数も少なく、家庭でも学校でも目立たないあつよしが、猫の間引きとクラスメイトのいじめ問題をきっかけに、自分自身はどうしたいのか、そのためにはどうふるまえばいいのかを考え始める。
きょうだいもいいが、父と母が素晴らしい。決して豊かではないし、生活を維持することを最優先にしてはいるが、夫婦で相談しながら必要な時だけ手を貸し、見守っている。この夫婦、多分30代だろうと思うが、今の30代とはやはり「大人」としての成長度合いが違う。
家族が助け合って、生きる術を子どもが少しずつ身に着け、それとともに精神も鍛えられ成長する、理想の家庭だと思う。
難を言えば、方言が、なじみのない地方の人間にはちょっとわかりづらいことと、コロバシなどの漁について解説が特にないこと。(調べればわかるが)
読書感想文コンクールの課題図書になったこともあるが、どちらかというと大人の方がより感動する内容ではないかと思う。特に昭和の田舎の生活を知っている人。
しかし、生活と愛情の間で揺れる思いや、いじめにどう対応するかなどは普遍的なことなので、中高生でもいいとは思う。「喧嘩せにゃいけん時やらんがは、優しいじゃないがぞ」という言葉は心に響く。