一流を育てる 秋山利輝
「秋山木工」は注文家具を作る職人集団である。
会社としての実績もあり、迎賓館や国会議事堂、宮内庁などのように、格式高い場所でも採用されている。
この「秋山木工」が注目を集めている理由としては、それらの家具が素晴らしいというだけではなく、徒弟制度を取り入れた独自の人材育成(人づくり)制度にもある。
この制度は、以下のような内容が含まれており、現代社会からするとかなり特異に見えるかもしれない。
1.入社したら男性女性関わらず、丸坊主
2.5年間の研修期間中の恋愛は絶対禁止
3.携帯電話禁止
などなど
しかし、この人材育成(人づくり)制度には注目が集まっており、全国から、そして海外からも、多くの経営者が続々と見学に訪れている。
また、過去の偉大な経営者も、丁稚奉公を経験している人は多い。
例えば、「出光興産、出光佐三氏」、「Panasonic、松下幸之助氏」、そして、「サントリー、鳥井信治郎氏」。
出光佐三氏は、「海賊と呼ばれた男」で一躍有名になったと思うが、彼に関しては、神戸高等商業学校(現・神戸大)を卒業しながらも一流企業へ就職せずに、商売を学ぶために敢えて丁稚奉公の道を選んでいる。
さて、少し話がそれたが、この本のタイトルでもある「一流を育てる」ということに関して、本書では以下のように述べられている。
「心が一流なら、技術も必ず一流になる」
おそらく、ここに込められた想いこそが、日本だけでなく世界の経営者を引き付けるのだろう。
技術はあっても、それを「何のために・どのように」使うかによって、その技術の価値は変化していくだろう。
技術としての価値を最大化するためにも、「誰が・どのような心持で・どのように、働くか」が重要と言っているように思える。
京セラ・KDDIの創業者で、破産寸前のJALを見事再建させた、稲盛和夫氏(代表著書「生き方」)も推薦文で以下のように述べている。
「心」を育て、「人生」を豊かにする日本人の「働き方」がここにあります。
このような、教育制度を古くさい、現代に合わない、と思う人もいるだろうが、技術の発達によって効率化が正となりつつある現代だからこそ、振り返るべきところも多くあると思われる。
私自身が起業家になるまでに学んできた体験からも、特に、育てられる側(学ばせてもらっている側)として、「学ぶ姿勢」が大事だなと体感し、実感している。
本書には以下のような記述があるが、特に最初は、全てを素直に受け入れて学びに変えて行くことが重要である。
1.学ぶにあたっては、親方の全てを尊敬し、親方の言うことが100%だと思って聞いていた
2.自分の立場に固執して、屁理屈をこねた分だけ火とは離れていきます
3.素直な心で努力した分だけ、技術と人間性が高まります
正直私の場合も、最初わからないことだらけだったが、「そもそも初めてのことばかりなので分かるわけがない」「分かるということは今までと同じことしかしていないということなのだから、むしろ分からなくて正解なんだ」と考えて、学びまくってきた。
このようなことをまとめて、職人としての心構えを説いたものが、秋山木工の『職人心得30箇条』である。
礼儀、感謝、尊敬、気配り、謙虚な心、人として大切なこと....、人づくりの基本が『職人心得30箇条』には詰まっている。
この30箇条はぜひ読んでほしいので、ここに書いてしまいたいが、それではネタばれすぎるので、最初の3つだけ引用させていただき、終わろうと思う。
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1.挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます。
気持ちのよい挨拶は、人を笑顔にします。積極的に挨拶をすることで、周りを活気づけることができます。
2.連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます。
情報を共有することで、周りも自分もスムーズに作業が進みます。また、周りの人に安心していただけます。
3.明るい人から現場に行かせてもらえます。
いつも明るくしていると、自然に周りも明るくなります。また、人が集まりお仕事がいただけます。
4.・・・・・
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全て最後が「現場に行かせてもらえます」となっているのが印象的である。
「心が一流なら、技術も必ず一流になる」にあるように、まずは心を徹底的に磨く必要がある。そのためにも、「現場で心に汗を書く経験が不可欠だ」と言っているようにも感じる。