クリスチャンではありませんが、ずっと聖書に興味があって、いつか腰を据えて読みたいと思いながら馬齢を重ねてきました。
本書は入門書として手に取った次第です。
へー、聖書ってそうだったんだと、膝を打つやら自分の無知を痛感するやら。
本書は新約聖書学の泰斗、田川建三さんはじめ池澤夏樹さん、内田樹さん、橋本
...続きを読む治さんらがその魅力を語ったガイドブック。
学者さんばかりだとどうしても硬くて素人にはとっつきづらい内容になりがちですが、執筆陣が実にいいですね。
あの吉本隆明さんの論考(マタイ伝を読んだ頃)も収録されてます。
第1章は宗教人類学者の山形孝夫さんによる「聖書ってどんな本?」。
聖書の基礎について講釈してくれていて、素人には助かります。
そこに日本最古の聖書訳(ヨハネ福音書)が出てきます。
ハジマリニ カシコイモノゴザル。
コノカシコイモノ ゴクラクトモニゴザル。
コノカシコイモノハゴクラク。
何とも名状しがたい雰囲気がありますね。
山形さんは何度も声に出して読んだそうです。
その体験について、こう語っています。
「すると、不意に、冒頭の一節から不思議な何者かが立ち現われてくる予感がした」
私も何度か声に出して読んでみました。
たしかに、何か胸がざわつくような感覚がありました。
恐らく馴染みのないカナ書きであることと、一読して意味がすんなりとは把握できないこと、一方で訳者が腐心して訳した様が想像できることなどが要因と思われます。
皆様ももし良かったらどうぞ声に出して読んでみてください。
文学者として聖書を読み解いた池澤さんの「読み終えることのない本」も面白かったですが、私はやっぱり内田さんの「レヴィナスを通して読む『旧約聖書』」に惹かれました。
レヴィナスはホロコーストを生き抜いたユダヤ人で、フランスの哲学者です。
ホロコーストのあと、ユダヤ人の多くは信仰の揺らぎを経験したそうです。
「なぜ神は私たちを見棄てたのか。民族の存亡のときに介入しないような神をどうして信じ続けることができるだろうか、と」
なるほど、よく分かります。
私だってそうなります。
これに対してレヴィナスはこう説いたそうです。
長いですが引用します。
「では、いったいあなたたちはどのような単純な神をこれまで想定していたのか、と。人間が善行すれば報奨を与え、邪な行いをすれば罰を与える。神というのはそのような単純な勧善懲悪の機能にすぎないというのか。もし、そうだとしたら、神は人間によってコントロール可能な存在だということになる。人間が自分の意思によって、好きなように左右することができるようなものであるとしたら、どうしてそのようなものを信仰の対象となしえようか。神は地上の出来事には介入してこない。神が真にその威徳にふさわしいものであるのだとすれば、それは神が不在のときでも、神の支援がなくても、それでもなお地上に正義を実現しうるほどの霊的成熟を果たし得る存在を創造したこと以外にありえない。神なしでも神が臨在するときと変わらぬほどに粛々と神の計画を実現できる存在を創造したという事実だけが、神の存在を証しだてる。」
深いですね。
つまり旧約聖書では、神は信者に霊的成熟を求めているということです。
本書刊行のそもそものきっかけとなった、田川さんへのインタビューも読みごたえがあります。
だって、タイトルが「神を信じないクリスチャン」ですぜ。
反骨の新約聖書学者の語るエピソードの数々は本当に飽きさせません。
さあ、聖書を読みましょう。