石井睛一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ第一部は主人公とヒロイン(モルソフ夫人)の淡い恋愛関係が続く。しかし、一変して第二部では主人公が彼女の傍を離れ、第三部ではヒロインが死に至り、登場人物たちがこぞって主人公を冷笑する。
訳者あとがきによると「谷間の百合」はバルザックの自伝的要素を含む小説らしい。そして、比較的早い時期に完成していたと思われるが、出版まで時間の間隔があったとか。
思うに、第一部は若い時に書かれていて、それを年数経ってバルザックが読み返し、自分の分身である主人公に辟易して第二部以降を付け加えたのでは。(夜中に書いたラブレターに後悔するみたいに。)
個人的に最後のナタリーの手記は不要と思う。終盤の主人公はたしかに女性に理想像を押し付け、そのわりに自分からは行動しないというつまらない人間に成り下がっているし、それを一刀両断する手記にスッキリしたのも事実。でも、第一部の主人公とヒロインの淡い真綿につつまれたような関係や、一貫して守り通されたヒロインの悲しい一途さにまで、良くない後味を残してしまう。
裏表紙のあらすじでは宗教的永遠を描くと書かれていたけれど、話の展開や主人公らの心変わりと言い、むしろ不変なものはないと思えてしまった。
作品を一貫して、モルソフ夫人の主人公への言付けは素敵だった。でも一番好きなのは、主人公の心変わりに冷たく変貌するシーン。それまで完璧だった夫人にはじめて人間らしい弱さが見える。