日本の歴史の中で女性がどのように生きてきたか、扱われてきたかを文学作品から辿る試み。
農耕社会である日本は古来より女性崇拝、女系文化があったが、大陸の制度や思想を取り入れることで、やがて男系社会へと変容していく。
平安中期から室町にかけては、まだ女系に対する「神通力」のようなものは存在したが、
...続きを読む現実的には男系そのものである。
男性社会に頼り、組み込まれることによってのみ安住の地を得られる当時の女性たちの生き方はどのようなものであったか。
当時の女性の生き方は「妻」か「母」以外には「遊女」か「尼」しかなかった。前者は男性社会に組み込まれた付属品であり、後者は社会から押し出された不安定な存在であった。
生まれ育った家で婿を迎え、男子であれば父方へ送り、女子であればまた家の中で育て婿を迎える、それが一種の「定番」であったが、何らかの理由でそのサイクルからはみ出してしまった女性は、新たな共同体へ落ち着くためにさすらう。
定番ではない、人とは異なる生き方であるからこそ物語になるのであるが、そうした物語が生まれ広まるのは、人々が心のどこかでそうした物語を求めているからに他ならない。
そのような人々の心の背景を、丁寧に論考している。
単純に今の常識を当てはめるだけではわからない物語の真相に、より深く迫ることができるような気がする。