矢崎源九郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2022年4月17日(日)に読みはじめて、同日読み終える。文学カフェのため。戯曲なのでページ数の割に分量は少なく、私のように本を読むのが極端に遅い人間でも半日で読める。
70頁あたりから盛り上がってきて、適度な緊張感を保ちつつ最後まで読むことができた。最後の展開そのものはよいのだけど、それまでのノラの言動と最後の雄弁で知的なノラの言動とのあいだに想像力ではなかなか埋めがたい溝があって、リアリティを感じられずに興醒めした。
確かに、それまでのノラが人形として欲求や言動を抑圧され、自らも意識的・無意識的に抑制して生きてきたというのはあるだろう。『それでも夜は明ける』に登場するソロモン・ノーサップのように本当は知的な人がそれを隠して生きているということもあるだろう。ただ、ノラに関しては、もちろん自分なりに最善と思って行動してきたことかもしれないけど、そしてまた男性中心主義的な社会規範、宗教、道徳に反対する意志を持っていたとしても、明らかに無知であることから引き起こされている結果が目の前にあるわけで、たんに知性的であったことを隠していたというだけでは十分に説明しきれないようなところがあるように思われるのである。
ノラは最後にいろいろ語るけど、乳母や女中との関係で言えば、ノラの父、ヘルメルとノラの関係と同様に対等でないわけで、もちろんそのことも含めてノラは自分が変わらなければいけないと言っているのだろうけど、ほんとうに私たちがいつでも誰に対しても対等であるというのは難しいことだよなと。
状況に応じたヘルメルの変わり身の早さは、ヘルメルの人格を疑いたくなるほどで、こういう人間は信用ならんなと。何よりもモラハラ、DV気質そのものだなと。
ちなみに、ノラがクログスタットから借りたという4800クローネ(相当?)は、当時の公務員の年収ぐらいの額だったようである。
クログスタットに対する、あるいはクログスタットによる〈赦し〉という観点でこの作品を読んだらどうなるのかなと少し気になる。そこから赦し一般について考えてみたいなと。
ところで、この物語に登場する人物は何歳ぐらいなのかなというのがとても気になった。ノラとリンネ夫人がどれぐらい歳が離れているのかというのも気になる。
この新潮文庫版を読んだだけではわからなかったけど、ランクの病気は梅毒であったと別の翻訳の解説にあったようである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ舞台part2を観に行くので、予習。
発表された当時の雰囲気はどのようだったのだろう。最後のシーンの絶望と胸がすく感じ、70年近く経ってもまだ共感できてしまうところが凄みであり、救いのなさも同時に感じる。
ノラの秘密に対して、その迂闊さや無知さに若干の苛立ちを覚えたけれど、誰も教えてくれず、教えないようにして、抑圧してきた時代は暗闇の中手探りするようで、完璧な立ち回りなんて出来るわけがない。そう思うと、ノラの勇気と知性──実は幸福ではなかったこと、既に愛していないことを認め、伝えることができる強さは清々しい。
イプセンの現実を切り出す明晰さが全てだ。解説では問題提起としては時流を過ぎ、既に陳腐化というような言及があるが、とんでもないと思う。(もちろん相対的に状況は改善している。)
とはいえ、男女の平等は近づきつつあるけれど、それは多くの人が(男女を問わず)ヘルメル化しているということであって、21世紀に入ってなおノラは、今もまだ孤独と絶望を抱えて踊っている。だからこの戯曲は幾度も演じられ、告発は続いているのではないか。
現代に至るまで数多の闘いがあり、勝ち取られてきた権利の庇護下に置かれている私は、擁護者たる自覚が希薄なのだと、最近はとみに思う。 -
Posted by ブクログ
夫ヘルメル=野間口徹・妻ノラ=深田恭子・悪役クロクスタ=北村一輝・友人リンデ夫人=尾野真千子・友人ランク医師=江本祐、こんな感じでキャラを置き換えて戯曲を読むとイメージ湧きやすいのではないかな。
砂糖より甘い世間知らずの妻との無意味ないちゃいちゃが続く第1幕、夫に知られてはならぬ秘密を暴露されたくなければ便宜を図れと悪役から妻が脅される第2幕、にもかかわらず夫がその秘密を知ったとたんに物腰柔らか態度が急変した夫の本性に接した直後に秘密の暴露がなされないことを知って安堵した夫が猫かわいがりに戻ろうとしても目が覚めた妻が断固拒絶して夫も子供も捨てる行動をとった第3幕、たった数ページで夫婦の性格が急変するので、序破急はげしい作品です。
現代の法律家には署名偽造が全てを失わせるほどの犯罪なのか疑問無しとしないし、そもそも乳母日傘で暮らしてきた妻が家を出て暮らせるのかも疑問に思わせるラストなのですが朝ドラ’’なつぞら’’でも舞台が取り上げられたのは、ウーマンリブとかそういう時代もあったんでしょうね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレずいぶん昔に読んでいたが、内容をすっかり忘れていた。
ノラは確かに可愛いのだけど、愛情の為にやった事なら罪ではないと考えるようなお目出度い人。しかしある事をきっかけに夫に対する不信感が芽生え家を出て行く事に。戦前の日本でもこの芝居を見た年配のご婦人は「しょうのない嫁」だと嘆いたんだとか。
ノラの気持ちもわからなくもないが、その時代に女が1人で生きて行くなんて並大抵の事じゃなかったはず。それまでまるで子どものママゴトのような日常を送ってきた人が果たしてやってっけるのかと余計な心配をしてしまう。
社会をまったく知らない箱入奥様のノラに対して自力で生きてきたリンネ夫人は逆に家に入るという選択をする。現在もさほど状況が良くなっているとも言えない。わかっていながら敢えて夫の人形になってしまうリンネ夫人のような女性が実は最も多いんじゃないかな。