「葉桜の季節に君を想うということ」「イニシエーション・ラブ」の次はこれを読め!
と帯に書いてあったので読んでみたんですが、その2作品とは全然違うと思いました。
結末も驚天動地とまでは言いがたく…(途中から何でもアリになってしまって、もはやどんな展開も驚かなくなる)
ただし、帯にある2作品の系統の本
...続きを読む格ミステリとして読まなければ、結構楽しめる作品でした。それはそれ、これはこれ。
最初あまりに登場人物が少なくてミステリとしてどうなるのかと思ったけど、なかなか意欲的な展開になって、トリックの微妙さ・世界観の薄さを勘案しても、全体的には面白く、最後まで読ませる力はあると思う。
私のような素人からすると、合間に語られる心理学とか精神分析の話はすごく興味深く読めたし、ミステリじゃない部分の評価のほうが高いかも。
ラストに不満があるものの、デビュー作ということも考えて、作者のやる気におまけの★4つ。(ほんとは★3.5のところ)
★
「黒死館なんて、作り自体は普通の探偵小説と変わらないけど、あのブッ飛び具合は他の追随を許さない。だって名探偵法水が何を言っているのか、読んでるこっちは全然理解できないんだから。でも物語はどんどん展開し、荘厳なカーテンフォール…一体何がどうなったのか、読者はアゴを外したまま置き去りだよ。読者をあそこまで突き放しているのに、なぜだかとてつもなく面白い。なんだかわからないが凄いものを読んだって感じでゾクゾクする。
この面白さって、難解なものを珍重するスノッブ精神のせいかとも思ったんだけど、どうもそうでもないみたいなんだ。うーん、どう言ったらいいんだろう。右も左も高く堅牢な壁に取り囲まれた、絢爛たる犯罪迷宮に、ぼんと孤独に放り出されたような、言ってみれば迷子の感覚というべきかな。『黒死館』『ドグラ・マグラ』は、この迷子の感覚が味わえるよね」
「すべてのものは原初の形態、つまり無機物へと回帰する。探偵小説においては、解決篇というかりそめの緊張低減ではなく、本来の状態――?未解決のままの混沌とした謎?という地点まで大きく戻らなければ、ウソだと思う。この世界は、いつだってわけのわからない謎また謎に充ち満ちているんだからね」
すべての有機体が、本来の無機的状態に回帰する基本傾向=涅槃原則
「人間の手によって産み出された探偵小説も、ひとつの芸術的有機体としての生命を持つならば、謎から解決へと直線的に進むのではなく、さっきも言ったように、謎からまた謎へと円還していかなければならない。これが探偵小説にあるべき、究極の涅槃原則だよ。すべてが直線的に進まねばならないというのは、近代的思考の誤謬以外の何ものでもないよ」