コカインとマリファナとアルコールとセックスの依存者としてのメチャクチャな半生が語られる。
タイソンが超新星として現れてチャンピオンになった頃を見ていただけに、その時期の話があっさり終わるのは拍子抜けだった。
そこが簡単に済まされると、あとは破天荒な服役生活や、痛々しい依存者の人生や、ドン・キングをは
...続きを読むじめとする取り巻きたち(ドナルド・トランプの名前も出てくる)の話が延々と続く600ページ超の本である。ビルディングスロマンの爽快感はない(最終段では再生に向かっているので本人的には爽快みたいだけど)。
それはある意味では当然のことだ。ボクシングからの引退を決めてヨーロッパでセレブとして遇されていたことについて
「ひとつわかったことがある。どれも俺の心に開いたでっかい穴を埋めてくれなかったことだ。俺はチャンピオンの座にちゃんと敬意を払ったことがなかったからな。簡単に手に入ったからだ。成し遂げるためにいっぱい猛練習をしたのは確かだが、王座は自分のものになって当然だと思っていた。」
と述べているが、そのスタンスで書かれた自伝なので。
師であるカス・ダマトについてタイソンが述べている部分はかなり興味深い。
「ボクシングマシン」としてタイソンを育て上げながら、王座に就くまでは寿命がもたなかったカス。それを予想していたからから、勝つための方法を伝授することを急いだ。チャンピオンとしての振る舞いとか、器とか、そういうのは未着手だった。
タイソンはそれについて師を責めることはしない。むしろ自身の生まれ育ちや母親の影響が大きかったと語る。
更生の意思を持った時点での自伝だからなのだろうけど、アメリカ社会の志向を反映しているようにみえる。
ヘビー級チャンピオンの華麗な人生(少なくともチャンピオンになるまで)について書かれたものではなく、依存症患者がろくでもない人生からの再起を志す物語というべきだろう。
この本に期待されるのがそういうものかどうかは微妙であるが。