『イリアス』に登場するアキレウスと、従者パトロクロスに焦点をあてた物語。2人に焦点をあてていることは一貫していて、純愛といってよいほどの関係に驚いた。パトロクロスは今回初めて知ったのだけど、アキレウスにそんな解釈があったのか…!
アキレウスとアガメムノンが決裂した後からのストーリーの緊張感と、その先の悲劇の予感が高まっていく様が感じ取れる書きぶり(翻訳も素晴らしい)は白眉といってよいのではなかろうか。アキレウスとパトロクロスがイチャついているシーンよりも心に残っているくらい。アキレウスの誇りと名誉を重んじるが故に、味方の兵士から憎まれることを恐れるパトロクロス。パトロクロスは心から優しい男だ。だからアキレウスは、母親で女神のテティスが反対しても、パトロクロスを愛したのだと思う。そして彼の優しさをちゃんとわかっていたもう1人が、パトロクロスによって助けられたブリセイスだ。パトロクロスを「最高のミュルミドネス」と称えたブリセイスだけど、その言葉が、神の予言「最高のミュルミドネスが2年以内に死ぬ」を実現させてしまったような展開に、思わず唸ってしまった。パトロクロスを巡る、彼女とアキレウスの確執も印象深い。
オデュッセウスに「神が作った最高の殺人兵器」と言わしめたアキレウスの、パトロクロスの死後の悲しみと怒りの様子が、大変冷酷で誰に対しても無関心な様子が素晴らしい。そして最後、アキレウスとパトロクロスが死後も共にいることをテティスが許したようで、しんみりと、でもちょっとほっとしたような気持ちでページを閉じた。
ギリシャ神話を扱っているからかもしれないが、パトロクロス視点の語り口調も全体的に静謐な雰囲気に満ちていて、読んでいるこちらも静かに感情を煽られる感じ。紙の本が手に入らないので、渋々電子書籍を購入したけど、この作品は紙で欲しいなぁと思った。