和田芳恵のレビュー一覧

  • 暗い流れ

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    とんでもない
     すごい、と噂に聞いてゐたが、その通りだった。
     子供の頃の無自覚の性的体験が、大人になった和田の筆から語られる。
     ここには想像力の及びつかないところがある。当時は本当の羞恥を知らないから、想像の低俗とは違って、生々しさの猥褻さが際立つ。
     たとへば、相手が肩に××をかけるのが快感とか、死んだ親友の母親とねんごろになるとかである。
     冒頭は明治のハレー彗星から始まり、大正の札幌でスペイン風邪にかかる描写もある。
     だが、それは無垢な猥褻さであって、大人のよこしまな猥雑ではない。
     しかし、年をへてだんだんと性を自覚すると、慕ぶやうになった。
     これは和田当人しかしえない体験であ

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    2024年12月08日
  • ひとつの文壇史

    Posted by ブクログ

    昭和恐慌さなかの昭和6年に新潮社に入社してから10年間の編集者生活を振り返った自伝、かと思ったが、自伝要素は入社と退社のいきさつだけ。死別した妻のことも一言触れるだけ。
    つきあいのあった作家や出版関係者の逸話であり、妥当な書名である。
    そういう話題に興味なければ何も面白くないかもしれない(私もそんなには興味ない)。
     
    この頃に再婚した吉川英治の妻が十代だった(吉川は四十代)ことを今回知ったので、『夜のノートルダム』で美川きよが書いていたエピソードの意味合いがよくわかった。
    十代の妻と戦地に向かう四十代の夫が別れを惜しんでいる車に同乗させられた三十代半ばの美川のいたたまれなさといったら。

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    2021年10月16日