あらすじ
ハレー彗星が地球に大接近し、湯河原で幸徳秋水が逮捕された明治43(1910)年、著者5歳から書き起こし、関東大震災の翌年、田舎の代用教員を辞し東京に出て地元の有力者の書生となった大正13年20歳を目前にする頃までを、北海道の原野を背景に描く自伝小説。抗し難い性の欲望に衝き動かされた青春の日々を独得の語り口で淡々と綴る傑作長篇。日本文学大賞受賞。
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Posted by ブクログ
とんでもない
すごい、と噂に聞いてゐたが、その通りだった。
子供の頃の無自覚の性的体験が、大人になった和田の筆から語られる。
ここには想像力の及びつかないところがある。当時は本当の羞恥を知らないから、想像の低俗とは違って、生々しさの猥褻さが際立つ。
たとへば、相手が肩に××をかけるのが快感とか、死んだ親友の母親とねんごろになるとかである。
冒頭は明治のハレー彗星から始まり、大正の札幌でスペイン風邪にかかる描写もある。
だが、それは無垢な猥褻さであって、大人のよこしまな猥雑ではない。
しかし、年をへてだんだんと性を自覚すると、慕ぶやうになった。
これは和田当人しかしえない体験であった。ごく幼少の、思春期まもない性的体験の貴重な自伝は、筆さばきも冗長を嫌って達者だった。私小説の醍醐味を久びさに味はった。