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「文芸批評の巨人」像が一新される! 「政治嫌いの文学者」というイメージが強い小林秀雄。だが著作を丹念に読むと、政治、戦争への深い関心と洞察が。 新しい小林像。
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Posted by ブクログ
一見、関係のないように思われるところを、全体的な観点で捉え直し、特に丸山眞男との比較がとても興味深い考察だった。
そもそも小林秀雄が「文芸批評の巨人」と呼ばれた事は薄っすら知っていても、同時代人ではない私には既に古典の領域だし、まして、政治嫌いのイメージがあるが、という前向きにもピンとは来ない。良い読者ではない事を自覚しつつ、中野剛志の著書でもあるし、ならば、この機に覗いてみたいという動機であった。 ー 初期...続きを読むの作品である「Xへの手紙」には、すでにこう書かれている。「俺は人間の暴力を信ずるが物質の暴力を信じない。だから俺は政治の理論にも実践にもなんの積極的熱情を感じないのだ。俺はどんな党派の動員にも応じない。俺は人を断じて殺したくないし人から断じて殺されたくない。これが唯一つの俺の思想である」 ー 確かに小林は、「政治と文学」において、「政治といふものは虫が好かないと吐露していた。それどころか、「私は長い事かゝつて政治への不信を育てて来た。格別な事を企図した訳ではない」とまで言っていた。 よく考えると政治を好きか嫌いかで論じるのは不適切であり、政治を切り離して民主主義、法治国家に生きられぬために、ここでは、論壇から政治に影響を行使するか、批評の対象とするか、あるいは知名度を利用して直接参加するか、という設問に対しノーと言っているという事だろう。 そこをもう少し咀嚼すると以下の思想に辿り着く。 ー 小林はプロパガンダの効果を懐疑。一個人の能力ではどうにもならないような危機に対し、国民は暗黙のうちに団結することを了解していたのであり、政府に言われるまでもなく団結した。プロパガンダを過大評価するものは、国民の智慧を過小評価している。 ー 国民共同体とは、選択して帰属するものではないという意味で、運命共同体である。戦争当事国の国民である以上、個人的な主義主張とは無関係に、否が応でも戦争に巻き込まれ、運命共同体である事実を突きつける。道徳的な良し悪しの問題以前の、単なる事実である。 ー 言葉は精神を他者に伝達し、集団行動や社会行動を可能にする。その意味で政治的なもの。しかし、精神の全てを表現する事はできず、言葉で表現できないものは捨象される。精神の複雑さは失われて、平板で硬直したもの、極端な場合には、違うものが伝達される。文学者はその表現に努力するが、政治は分かりやすさを求めるため、両者の言葉の扱いは対極かつトレードオフ。 自然発生する政治的な構造に対し、その構造が人間の真実や機微を濾過してしまうならば、文学や評論は、濾過される前の状態に作用すべき。つまりは、その役割の違いという故、という事だろうか。
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