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土地や血統の宿命からは決して逃れられないと知りつつも,普遍的な個性や愛を信じようとした有島武郎(一八七八―一九二三).二つの力学が絡み合うなか,『或る女』『カインの末裔』『生れ出づる悩み』などの有島文学は産み落とされた.矛盾に満ちた葛藤の果てに有島が夢見た地平をめざして,その作品と生涯を読み解いていく.
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Posted by ブクログ
私の読書生活にとって、有島武郎はまったく縁がなかった。読みたいと思ったことがなかった。そんな中でこの本を読もうと思ったのは、ビッグイシューで“在野研究者”としての荒木優太さんのインタビュー記事を読んだからだ。 それにしても荒木さんはなぜ並みいる作家のなかから「有島武郎」に肩入れするのだろうか?それ...続きを読むが知りたかった。だって野球漫画で例えれば、巨人の星やドカベンではなく、アストロ球団に肩入れするようなものではないか? 荒木さんには失礼ながら私が意外だったのは、荒木さんの論調が、いわゆる個人的感想ではなく、有島作品を精読し詳解していたところ。在野とは言いながら、好き放題に自分の思いを書き散らすというのとは真逆のオーソドックスな研究者としての姿勢がまず良かった。 だけど荒木さんの論調は決して平易ではなかった。それは有島作品が元々一筋縄ではいかない要素を多く有しているからかもしれないが。 この本の各章は一見独立したような体裁のようになっていて、有島という1本の幹として捉えづらかったのが原因かもしれない。1つの章をやっと読み終えた、と思えば次の章ではまた新たな展開が、という感じの波状攻撃は、文学講読の基礎力がないと難儀すると思う(私は基礎を学んでいないので苦労した)。 だが、あえて私から1つポイントを言うとすると「何が何でも最後まで読め」につきる。 各章独立していると思われたものが、ある瞬間につながるように感じるはずだから。通しで読むことで、ようやく荒木さんが言わんとする有島の魅力に一歩近づけたような気がする。 そして最後に改めてこの本のエピグラフ――ソローの「森の生活」からの引用――「ごく小さな泉でさえ、その一つの値打ちは、それをながめていると大地は陸つづきではなくて島であることがわかることである。」(神吉三郎訳/荒木さんの引用は原文の英語による)の真意に辿り着けるという、考えられた構成になっていたことに最後の最後でやっと気づくことができた。 それはすなわち人間を形づくるおおもとの要素は畢竟“個性”なのだ、という考えに有島が紆余曲折しながら辿り着けたことと大なり小なり同じ道程なのかもしれないし、裏返して、“地人論”としての一つの到達点に辿り着けることにもなる。 荒木さんの文章は一見粗削りだから、もしかしたら誤解も多く生じるかもしれないと杞憂するけれど、私は荒木さんの“誠実さ”は確実に受け取れた。
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