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Posted by ブクログ
タイトルの「ユーミンの罪」とは何か?あとがきまで読めば判明するが,松任谷由実さん本人はおそらく,「私,何か悪いことしたかしら?」と苦笑するだろう。
著者のように,ユーミンに「救われてきた」人も,そこまでとは言わずとも,多少なりユーミンの曲を知っている人にも,読みやすい新書である。著者自身は,1970年代の荒井由実時代からユーミンソングを聴き続けてきただけに,歌詞の解釈には40年の熟成感を味わえる。
その的を射た表現として,「助手席性」という言葉がある。著者によると,それは「ある行為を主体的にする人がいる時,「その行為に参加はしないが,賛同し,共にいる」という姿勢」(64頁)だという。「ロッヂで待つクリスマス」のほか,「中央フリーウェイ」や「ノーサイド」など,80年代の発売曲に登場する女性は,こうした「助手席性」を備えている。ユーミンソングのいま一つのキーワードは「つれてって」(103頁)である。そして,その最高峰が「恋人はサンタクロース」にある点は,人口に膾炙するところである。こうした外見的には受身の姿勢を見せながら,内面的にはオトコとのリードを駆け引きしている女性像は,その結末が幸福であれ,不幸であれ,『逆演歌』(237頁)なのだという。
著者は1991年に会社を辞め,無所属となる転機を迎えると,1990年代には「ユーミンのアルバムを以前のように追わなくなった」。このため,本書の解説は,同年発売の「DAWN PURPLE」をもって終了する。その理由として,「ユーミンの歌というのは所属している女」のための歌」であり,「何らかの集団に所属し,守られている女性が聴くべき歌」(270頁)であるからこそ区切りをつけたかったというニュアンスを残す。ただ,ユーミンの90年代はメディアとのタイアップを強化し,J-POPに組み込まれていく時代でもあった。そういう点では,ユーミンソング自体も,バブル崩壊後の時代に適応した「何らかの集団への所属」を求めていたのかもしれない。
Posted by ブクログ
「小説現代」連載時の題名が「文学としてのユーミン」…でも酒井順子初の新書として「ユーミンの罪」に変更して大正解!パンドラは箱を開け、アダムとイブは林檎を食べ、もう元にもどれない時代をつくってしまう、そんな不可逆過程の原罪こそが彼女の本質、と言っているようです。本文中にもユーミンと社会の関係をミラーボールとその煌めきを映すもので比喩をして、どっちがどっちかわからない、との記述がありますがその共犯関係の一体感こそが取り上げられている時代のときめきだったのだと思います。そこから発せられる甘い香りにわれわれ男子も吸い寄せられたよなぁ…逗子マリーナも苗場プリンスも聖地でした。立川談志の落語が人間の業の肯定といったことに並べてユーミンの音楽が女性の業の肯定といっているところが題名と違って内容は断罪ではなく愛に満ち溢れた記憶の旅になっている理由です。作者もユーミンのいた時代を肯定し、ユーミンに肯定されていた自分を肯定しています。そこにあるのが後悔なのだとしたらパンドラでありイブなのですが、前を見ているだとしたら何回でも挑戦するイカロスでありめげないプロメティウスなのかもしれません。平均寿命が男性より長い国において、これから新しく女性が立ち向かう事態に対して不滅に箱を開け続けて欲しい、とアダムは思います。
Posted by ブクログ
すごいタイトル。
確かに我々の年代は青春時代の傍らにはいつもユーミンソングがあり、影響を受けてきた人はたくさんいるよなあ。
アルバム『ひこうき雲』から『DAWN PURPLE』(1991年)までの収録曲の歌詞から分析した解説。(曲調ではなく、あくまで歌詞からの分析)
例えば『14番目の月』(1976年)の収録曲『中央フリーウェイ』は中央自動車道をユーミン実家の八王子まで車で送っていくシーンとして分析すると、『初めて出会った頃は毎日送ってくれたのにこの頃は冷たい』という松任谷さんとの付き合いが少し温度が冷めてきた頃(ラブラブな恋人から良きパートナーへ)かも?と仮定したり、『PEARL PIERCE』(1982年)の『真珠のピアス』は、『ベッドの下にわざと片方捨てたピアスにより、彼と彼女の両方とも確実に殺す、女の特攻精神』と表現し、『DA・DI・DA』(1985年)の曲はこの年に制定された『男女雇用機会均等法』の影響があるのかもと書いている。『シンデレラエクスプレス』『青春のリグレット』など名曲もあるしね。
『ダイヤモンドダストが消えぬまに』(1987年)は、その後のバブル崩壊を暗示していたのか等々、アルバムごとの代表曲の歌詞の描く世界観からの女性の世相を楽しく書いている。(もちろん中には強引な説もたくさんあったけど…)
『ユーミンの歌とは女の業の肯定である。』こんな結論が結びに書いてあった。1970年からバブル崩壊までの女性達の意識と世の中に与えた影響の検証はいったんここまでだったようだ。
これ以降もユーミンは20枚近くのアルバムを出し、年齢は70歳を超えてなお活躍中だ。酒井順子さんには『ユーミンの罪2』を書いてほしいなあ。(誰か中島みゆきの曲でも同じことやってくれないかな…こちらはちょっと怖いかも)
Posted by ブクログ
酒井順子(1966年~)氏は、東京都生まれ、立教女学院小、中、高を経て、立教大学社会学部卒。高校時代から雑誌「オリーブ」にエッセイを寄稿。博報堂勤務、生活総合研究所客員研究員を経て、フリーランスのエッセイストに。『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞(2004年)受賞。
本書は、松任谷由実(ユーミン)の楽曲を通して、高度成長期の1970年代から、バブルが崩壊した90年代初頭までの、日本の女性の生き方や価値観の移り変わりを読み解いた評論的エッセイ集で、アルバム「ひこうき雲」(1973年)から「DAWN PURPLE」(1991年)までの20作品が取り上げられている。
私は、酒井氏とほぼ同世代の男性で、所謂ニューミュージック(今でいうシティポップ)の全盛期に学生生活を送ったが、(男性なので、ユーミンよりも山下達郎や角松敏生を好んで聞いたが)たまたま新古書店で本書を目にし、手に取った。
ひと通りページを繰って、様々な意味で懐かしさが込み上げてくると同時に、「なるほどね」、「確かにね」と首肯すること数多であった。
まずは、帯にもデカデカと書かれている「ユーミンの歌とは女の業の肯定である」という点。ユーミンの歌の歌詞は、恋愛、結婚、自己愛、自立、嫉妬などの女性の内面や社会的な立場について、赤裸々に描きつつ、それを肯定してくれたのだという。著者があとがきで紹介した、ある四十代の独身女性の「ユーミンは、救ってくれすぎたんですよ」という言葉(よって、本書の題名は「ユーミンの“罪”」なのだ)は、目から鱗であり、衝撃的ですらあった。
また、「中央フリーウェイ」(1976年)に象徴される「助手席」(ユーミンは、その後結婚する松任谷正隆氏の運転する車の助手席に座って、中央高速を競馬場やビール工場を見ながら、八王子に送ってもらっていたのだ、と著者は語る)、「恋人がサンタクロース」(1980年)に象徴される「つれてって文化」等のキーワードは、まさに当時の社会・文化の一面を強く映し出したものである。
当時の(東京の)若者の流行や消費文化を描いた象徴的な文学作品としては、田中康夫の小説『なんとなく、クリスタル』(1980年)が思い浮かぶが、ユーミンの歌は、そこに登場する若者の等身大の心の内を代弁したものとも言えるのかもしれない。
更に、本書の特色の一つとして、著者自身がユーミンと同じ女子中・高出身(ユーミンは立教女学院から多摩美術大学へ進んだ)ということがあり、考察における具体性・リアリティを高めている。
ユーミン・ファンは言うまでもなく、当時の社会文化に関心がある向き(特に、当時をリアルタイムで生きた世代)には、興味深い一冊と思う。
(2025年5月了)
Posted by ブクログ
1973年のデビュー・アルバムから1991年の『DAWN PURPLE』までのアルバムレビューを通してユーミンの深層を追う。初期の頃の少女のとして輝き、助手席志向などは共感できることも多いし、情報収集も十分で参考になることも多い。また、女性の生き方にユーミンの歌詞の世界がいかに関わってきたがという視点は男性のワタシにはあまりないので、新鮮でもあった。彼の部屋にピアスを落としておくなんて、褒められたことではないのだけど、それを歌にすることで容認してしまう。それはユーミンの罪なのではというのはもっともである。
最後にそのあたりのことをまとめて書いているので、少し引用。
『ユーミンは救ってくれすぎた。本来ならばもっと落ち込んでいたかもしれない人生の危機も、ユーミンのお陰で何とかくぐり抜けてきました。』
『ユーミンが我々にしてくれたことは、すなわち「肯定」です。』『「ユーミンの歌とは女の業の肯定である」と言うことができましょう。』『「もっともっと」の渇望も、そして嫉妬や怨恨、復讐に嘘といった黒い感情をも、ユーミンは肯定してくれました。』『私達は女の業を解放することに罪悪感を持たずにすんだのです。』
『女が内包するドロドロしたものを全て肯定し、ドロドロをキラキラに変換してくれた、ユーミン。私達は、そんな風に甘やかしてくれるユーミンが大好きでした。』
『ユーミンは、私が初めて出会った「大人になってもおばさんにならない女性」でした。』『もしかするとジブもそうなる子とができるかも、という可能性を、ユーミンは示してしまったのです。』
『ユーミンは、覚悟と自信とともに、堂々と「永遠」を求めす。』『「永遠なんて、手に入るわけがない」と思い込むことによって面倒を回避している自分が、卑怯にも感じられのです。嗚呼、そんなふうに思わせるのもまた、ユーミンの罪。』
鋭い読解力が面白く、酒井順子はやはり只者ではないと思うのだが、無理にまとめてる気配と「小説現代」の連載をまとめたものなので単調になってしまってるところがある。
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