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「憑きもの」を宿す少女は、病室に収容されていた。精神分析医はその正体の追求を試みるが……。表題作のほか「岬にて」「すぺるむ・さぴえんすの冒険」「あなろぐ・らう゛」を収録した、衝撃のSF短編集!
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Posted by ブクログ
[岬にて] 一見けだるい、なんてことのない話のような雰囲気が漂ってるが、想像力を刺激されまくった。たんに岬のある場所が南半球だってだけなんだけど、太陽が北にあるっていう描写から、地軸が歪むような大異変があったんじゃないかとか、島が連なっているという風景からは、それが沈んでしまった日本の山脈ではない...続きを読むかと想像したりして。まあ勝手にこっちが想像力を働かせすぎただけなのかもしれないけど、この短編には、静かながらもそうさせるだけのエネルギーがあるのかもしれない。なんか我ながら、えらく思い入れが激しいな。 明快なオチがあるという種類の話ではないし、琴の音色とともに、時間が流れていくような描写はちょっと実験小説っぽいかな。文学的と言うべきか?記憶を失う前に妻を殺しているかもしれないという設定とか、ラリってるのか、ボケてるのか、それとも・・・っていうラストの不条理な感覚とかも好き。人間ボケると宇宙と向き合うっていう意味もあるのかな。 この話も、謎をポンと投げ出して解決しないままほっておくというパターンだけど、不思議とそのことに対する不満はない。「さよならジュピター」のエイリアンの時はあんなに不満だったのに何でだろう? やっぱ、「首都消失」や「さよならジュピター」とかじゃなくて、小松左京は初期の作品から入るべき。 [ゴルディアスの結び目] ”縮潰する部屋”の謎、憑きものにとりつかれて額には角が生え、恋人をかみ殺した女、ポルターガイストの頻発する病院、最新の宇宙論が暗示する光と闇の戦いの趨勢。”サイコダイバー”にも、”バスタード”にも影響を与えたと思われる、驚異的な密度の短編。 ”エルゴ領域”や”事象の地平線”を越えるときの描写の、ブラックホールと地獄のイメージと重ね合わせるという新解釈もやられたって感じで、これまでに読んだ小松左京の作品としては、間違いなくベスト。「果てしなき流れの果てに」ですら、これに比べるとちょっと冗長な感じがするくらい。あえて対抗馬を挙げるとするなら未完の「虚無回廊」くらいか。 個人的には、小松左京といえばてっきり科学の人だという先入観があったから、かなりの部分を占めるオカルト的な雰囲気がちょっと意外。著者の中では最先端の科学も、異端の科学も、オカルトも同列なのかもしれない。そう考えると「果てしなき~」で幽霊が出てきたのもうなずける。 あと少女のマリアが腹を割かれて犯されているというイメージや、眼球が燃えながら飛び出すところとか、糞便を吐き出す花とか、過激で過剰な描写が頻出するのも珍しい。はっきり言って、こういう遠慮のない話は好きっす。 菊地秀行も、夢枕獏も萩原一至もみんな小松左京の影響を受けてたのか。なんか今さらだけど、やっと俺にも小松左京の偉大さがわかってきた。 [すぺるむ・さぴえんすの冒険-SPERM SAPIENS DUNAMAIの航海とその死-] ”お前を人類の中からただ一人えらんで、宇宙の一切の秘密と真理を教えよう。その代償に、こちらは二百二十億の全人類の生命をうばう・・・。どうだ?お前はこの申し出をうけるか?”いやー、もういきなりの大ネタ炸裂。凄いっす。鳥肌立つっす。 他にも、人類は”有機生命系の維持”という初期条件のために知性に制約を与えられ、遂に宇宙の真理にはたどり着けないとか、ミスターAの夢を分析するくだりとか、小松節が快調。細かい部分だけど、ミス・リーが突然動かなくところなんかの、普通の生活の背後にふと異なる世界観が覗く部分もうまい。 ただ、最初に大ネタに比べると、ラストはちょっともの足りない感じがするのが残念ではある。 この短編からは”マクロス”を連想したけど、さすがにこれは無理矢理かな。このネタは昔からいろいろと書かれてるもんね。 [あなろぐ・らう゛-または、”こすもごにあⅡ”-] 前半の男女のセックス部分の執拗な描写に、またしても小松左京に対して抱いていた先入観を裏切られた。一方でセックスによって”シュワルツシルドの産道”を通って”宇宙卵”が生まれると語られるところや、「疑似分娩」、「疑似殺人」という言葉を使ってセックスに生と死のイメージを強引に重ね合わせていくという手法、ことが終わったあと男と女の役割がすり替わるところなどは、いかにも著者らしいとも感じたけど。 そして後半の、「人間は、無秩序へエントロピー増大へと向かう宇宙の”宿命的傾向”に対し、局所的に秩序が回復するとき、それを美として認識し感動する」という主張は、著者が知性をというものどう捉えているかという意味で興味深い。 この短編集は、俺にとってYMOの「BGM」に相当するものかもしれない、とふと思った。現時点ではこれに最高の評価をすることは出来ないが、なんかすごいものであるらしいということはおぼろげながら感じてる、といったところか。ただ、何年かあとになって読んだとき、俺の中での最高傑作という評価になるかもしれない。
今読んだも新鮮な名作四篇。表題作は1番かっこいい日本SFだと思う。あと小松左京の文章力はすごいと思う。
哲学的話もあり、何回も読んでも捉えるのが難しい。が、そこも含めて良い。小松左京はもっと評価・注目されるべき作家である。
表題作は必読かも。日本の作家の手になる日本的SFの一つの極み。宇宙の中の人類という壮大なテーマを背景にしながら、何故かしら話がプライベート的な小さな空間に収まっていく。 でも法螺が吹けないなら、このプライベート感をギリギリまで突き詰めないと世界で伍していけない。もう半世紀近く前にそのことを本作は証明...続きを読むしている気がする。
SFというより哲学小説、とても興深い作品。作者は渾身の力を込めている。 「岬にて」 孤島の岬で人生の終盤を迎える人々の姿に、宇宙とのつながりを見られるのか。 「ゴルディアスの結び目」 恐ろしいほどねじれてしまった心の闇、その固く複雑な結び目をほどくにはどうするのか、 時間をかけてほどいていくのか...続きを読む、刃物で断ち切ってしまうのか。 そこも宇宙のひとつなら、行ってみるしかない。 「すぺるむ・さぴえんすの冒険」 全地球の人々の生命を犠牲にすれば、絶対一人に授けるという「宇宙とは何かの悟り」 どちらを選ぶのか、するとどうなっていくのか。 「あなろぐ・らう”」 人間に備わっていると思われる「実在意識」はどこから来たのか? 宇宙からなのか。 茫漠広大な宇宙の中の銀河系の中ののひとつ太陽系にある地球がいずれ滅びるとき。 この最後の章のカップルの様子と景色の描写が美しい。 しばらくおいて再読することにしたい。
中学の頃夢中になって読んでいた小松SF。表題作なんてサイコ・ダイブする話のはしりなのでは? ホラーと量子理論による宇宙観をむすびつけるという荒技に圧倒されます。現在は観測されるまでになったブラックホールですが、作者のように宇宙論と人間を結びつけて描くSF作家はもはやいないでしょう。 若かりし頃の...続きを読むいろんな情熱とともに記憶やら感情が呼び起こされて、最近元気が無くなってきた自分に喝を入れたくなります。
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