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絵馬の中の人物がまるで矢を放ったように見える殺しの現場の真相は──(びいどろの筆)。味競(あじくらべ)番付で上位になった店ばかり次々と強盗に襲われているが……(泥棒番付)。砂を金に変える秘術をおらんだ人から教わったという者が持ち込んできた話とは(砂子四千両)。空中楼夢裡庵こと八丁堀定町廻り同心の富士宇衛門が、江戸の風物詩をめぐる不可思議で魅惑的な事件と対峙する(解説:芦沢央)。
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Posted by ブクログ
「泡坂妻夫」の連作短篇時代小説集『夢裡庵先生捕物帳』を読みました。 「泡坂妻夫」作品は、『亜愛一郎の狼狽』以来なので、約2年振りですね… 「松本清張」、「近藤史恵」、「井川香四郎」の作品に続き、時代小説・捕物帳です。 -----story------------- 〈上〉 絵馬の中の人物が、まる...続きを読むで矢を放ったように見える殺しの現場の真相は――(『びいどろの筆』)。 味競番付で上位になった店ばかり次々と強盗に襲われているが……(『泥棒番付』)。 砂を金に変える秘術をおらんだ人から教わったという者が持ち込んできた話とは(『砂子四千両』)。 「空中楼夢裡庵」こと八丁堀定町廻り同心の「富士宇衛門」が、江戸の風物詩をめぐる不可思議で魅惑的な事件と対峙する。 (解説:「芦沢央」) 〈下〉 「相性を見てほしい」真剣な顔をした娘が本当に占ってもらいたかったものとは(『手相拝見』)。 金魚が一匹残らず死んだ。さらには人間まで……もしやあの饅頭に毒が?(『金魚狂言』)。 花火が終わって静まり始めた川に浮かぶ船には、一体の屍体が(『仙台花押』)。 八丁堀同心「夢裡庵」が大砲隊の前に仁王立ちする最終話(『夢裡庵の逃走』)を含む、江戸が舞台の連作ミステリ11篇。 (解説:「澤田瞳子」) ----------------------- 1992年に刊行された『びいどろの筆』、1999年に刊行された『からくり富』、2005年に刊行された『飛奴』の3作品を上下巻に再編集して改題された作品で、「空中楼夢裡庵(くうちゅうろう むりあん)」こと八丁堀定町廻り同心の「富士宇衛門」が、江戸を舞台にした不可思議で魅惑的な事件を解決する連作短篇です、、、 全篇に「夢裡庵」が登場するものの、各作品の主人公が「夢裡庵」とは限らず、前の物語での謎解き役が次の物語では主人公となり、その物語の謎解き役がさらにその次の物語の主人公になる… という感じでリレーされていく形式なので、読んでいるうちに、徐々に世界観に入り込んでいく感じで、毎回、読み口が異なるので飽きずに読めましたね。 〈上〉 ■びいどろの筆 ■経師屋橋之助 ■南蛮うどん ■泥棒番付 ■砂子四千両 ■芸者の首 ■虎の女 ■もひとつ観音 ■小判祭 ■新道の女 ■解説 芦沢央 〈下〉 ■猿曳駒 ■手相拝見 ■天正かるた ■からくり富 ■風車 ■飛奴 ■金魚狂言 ■仙台花押 ■一天地六 ■向い天狗 ■夢裡庵の逃走 ■解説 澤田瞳子 一篇が40ページ程度だったし、さらっと軽く読めるような内容だったので、肩の力を抜いて読める作品でした、、、 全21篇、それぞれ魅力がありますが… その中でも印象に残った作品を紹介します。 おらんだ人の医師「ジョベノン ローコキ」から伝えられた砂を金に変えるという秘薬“マテリヤプリマ”を持っているという「草藤蘭魚」が、さらに大量の秘薬を手に入れるため、金主を募っているという… 「蘭魚」は金主たちの前で秘術を行い、実際に砂から金を作り出して見せた、、、 その手順には特に怪しいところもなさそうだったが… 当然ながら「蘭魚」の“秘術”はインチキなのですが、その裏に隠された意外な狙い(真の狙い)に驚かされた『砂子四千両』。 「由美吉」と「豊菊」は茶屋「小桜屋」で人気の芸者だが、その境遇は対照的だった… 「多田屋源兵衛」という嫌な客につきまとわれる「由美吉」と、「竹之助」と名乗る謎の侍と惚れ合っている「豊菊」、、、 しかしある日、なぜか「豊菊」が「多田屋源兵衛」を殺してしまった… 「豊菊」の動機があまりにも鮮烈で、自由のない女たちの哀しみが強く印象に残る『芸者の首』。 浅草の見せ物小屋で大人気の、三つの乳房を持つ“もひとつ観音”、その観音様をつとめている「お照」が、ある日ふらふらとどこかへ姿を消してしまった… 一方その頃、何かに喉を食いちぎられた侍の死体が発見された、、、 その懐には、“もひとつ観音”の刷物が… 「夢裡庵」の人情裁きが印象的な『もひとつ観音』。 納豆売りからお釣りとして珍しい一文銭を手に入れた「与七」は、占師の「薬小路車道」とともにその出所を調べていた… 様子を怪しく思った岡っ引きに自身番へと連れて行かれた二人だったが、そこで出くわした女の死体が持っていた紙入れの中には、、、 古銭に関する蘊蓄が面白いですね… そして「夢裡庵」の犯人の見逃し方が印象的な『猿曳駒』。 蛤弁天で売り出された富くじに、江戸の町は大騒ぎ… 岡っ引きの「俵助」が営む小料理屋「青馬」でも、常連が富くじの話で盛り上がるがその中の一人で石屋の「庄太」が、何と百両の一番富を当てたらしい、、、 しかし、どうもおかしな様子の「庄太」に、「俵助」の娘「千代」は不審を抱く… 本来は完全犯罪に近いと思いますが、それが発覚するきっかけが、実に自然な『からくり富』。 捕らえられた盗賊が、今までに盗みに入った店の名前を白状させられた… その中に、このところ天文道師の占いで大儲けしている「大坂屋」の隠居所の名があったが、なぜか当の「大坂屋」からは被害の届けがなかったのだ、、、 鶯と鳩の謎解き… 特に伏線がお見事な『飛奴』。 大の金魚好きで知られる「岩治」の金魚が全滅してしまった… 熊谷稲荷の祭礼で配られていた饅重を家人が与えたところ、たちどころに金魚が死んでしまったという、、、 さらに、同じ饅重によると思われる事件が相次ぎ、ついに死人が出て… ささやかな矛盾から事件の真相が明らかになる過程は面白い『金魚狂言』。 最終話『夢裡庵の逃走』では、彰義隊に加わり、大砲部隊として討幕軍と戦う「夢裡庵」のエピソードが描かれています… やがて戦端が開かれ「夢裡庵」の奮戦も虚しく、、、 彰義隊の運命は歴史の知るところですが… 厳しい戦いの中を、何とか生き残った「夢裡庵」、明治を彼らしく生きた後日譚を読んでみたいですね。
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