「航空管制科学」という、これまでの管制官の経験や勘を頼りにやってきた航空管制の分野に、どうコンピュータが人間を支援できるかということを研究する航空宇宙工学が専門の研究者のエッセイ。航空管制科学についての話と、理系研究者の生活、日本から出て仕事をすることについての思いなどを述べた話が、半分ずつくらい...続きを読む載っている。
おれにとっては新しい本で、結構難しい話のはずなのに、とても柔らかく書かれていることと、研究者として生きることの喜びや厳しさを率直に書かれていることが、新鮮だった。後は何よりもおれと年齢が近いことだ。おれはこんなんなのに、この人こんなことまでやって、何かを成し遂げようとする人はほんとすごいなあ、といったことをずっと考えてしまった。
著者が教授から聞いたという印象的な話、「大学院の博士課程を卒業してからどう研究者として成長していくか」に「甘柿コース」と「渋柿コース」がある(pp.25-6)というのは印象的だ。おれが同じ立場だったとして、「渋柿コース」を選べる勇気や自信があるのか、すごい不安だ。「孤独は、創造の代償だ。孤独を失えば、創造なんてなしえない。」(p.145)という言葉が印象的だ。
あとは航空管制の現場のFirst Come First Served(先着順制)というのは聞いたことあったけど、「将来、エアラインに公平な航空管制サービスを提供しきれなくなってくることがあります。」(p.166)、ということで「良い機材を搭載した航空機にはよりよい管制サービスを提供」(同)するという、Best Equipped Best Servedという考え方があるらしい。
それにしても、職人技のようなことをする管制官に機械を導入して、それを管制官が受け入れるようになるのかどうか、管制官のプライドを傷つけることにはならないのか、という疑問を持った。結局人間は感情で動くのだと思うが、そういう旧態依然といった人は特に航空の現場では生きていけないだろうなあと思った。
航空に興味がある人だけでなく、将来研究者を目指す人にも有益な本だと思う。(17/08)