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現代の世界で、平和はいかにして実現可能か。日本の安全は、どうすれば確保できるのか──。安保関連法をめぐる激しい論戦にもかかわらず、こうした肝要な問いが掘り下げられることはなかった。これらの難問を適切に考えるには、どのような場合に戦争が起こるかを示す歴史の知見と、二一世紀の安全保障環境をめぐるリアルな認識とが、ともに不可欠である。国際政治・外交史の標準的見地から、あるべき安全保障の姿と、そのために日本がとるべき道筋を大胆かつ冷静に説く、論争の書。
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Posted by ブクログ
平和は努力無くして我々の元には訪れない。我々が平和を愛し、戦争を望まなくても、戦争は彼方から我々に忍び寄ってくる。世界を見渡せば常に国家間の紛争だけでなく内戦やテロがいつも何処かで起こっている。今はまさにウクライナとロシアの戦争、そしてイスラエルによるガザへの侵攻など、日々ニュースで流れるものもあれ...続きを読むば、国家による少数民族への暴力、自爆テロなどあげたらキリがない程、世界は平和とは遠くに置かれた市民がいる事を忘れてはならない。我々日本人は戦後80年、一切そうした場所とは無縁に生きてきたと言っても過言ではないだろう。勿論、記憶に新しいオウム真理教による地下鉄サリン事件や、秋葉原の殺傷事件、安倍元総理の殺害など、恐怖を感じる事件は度々起こってきたが、警察官の日々の努力で無事に解決してきた。自衛隊が出動する機会の無いこれら出来事は、犯罪・事件として国民に認識され、これを機に日本の平和が損なわれた、衰退したと実感したものは少ないだろう。そう、日本は依然として平和な国なのだ。しかしながら世界には、その様な事件レベルに止まらず、ミサイルやロケット弾、戦車やドローンからの攻撃に晒されている市民がいくらでもいる。そこでは、当たり前だが人々は血を流し、武器をとって戦っている。 戦後日本は長らくアメリカの庇護の元に、諸外国から直接領土を攻撃される事なく過ごしてきた。そして竹島だけは韓国に上陸され実効支配をされ続けてはいるものの、その他領土領海を他国に奪われる事なく、自衛隊が戦闘に巻き込まれた事は幸にして無い。この背景にあるのは勿論日本の安全保障政策が成功してきたからであり、何よりアメリカの存在の大きさが影響してきた事は言うまでも無い。何故なら、日本の周辺には日本とは基本的な国の在り方、考え方を必ずしも共通でない国家が存在し、何より他国の領土を国際法に反してでも奪いとる事を恐れない国は沢山いる。例えばウクライナに攻め込んだロシア、更には台湾を国内問題としてさっさと片付けてしまいたい中国、日本の上空を越えて実質的なミサイルであるロケットを放つ北朝鮮など、そうした国々から未だに攻撃を受けてない。彼らの国益を考えれば、当然日本を攻撃できる能力を行使する可能性は十分あるはず、にも拘らずだ。彼らの行動を抑止しているのは、当然、日本の自衛隊の存在とアメリカの沖縄駐留軍であるのは明白だ。屡々、国防費の削減や自衛隊の縮小、沖縄からの米軍撤退を求め、日本が武装せずに平和を貫けば、戦争に巻き込まれないと主張する声を聴くが、これは本当に楽園の幻想に取り憑かれたか、脳天気としか言いようが無いと感じる。仮に完全に武装をやめたとして、無防備な状態の日本を攻撃すれば、経済的に繋がりの深いグローバル社会に於いて、世界の国々が黙ってはいない、そう考える人も多いだろうが、事実経済封鎖されたロシアを止める事はできなかったし、イスラエルに至っては、各国が批判はすれど何も手を出せない。そして経済的な結びつきで言えば、世界の国々は中国との縁が切れる方が余程自国に不利益になる。つまり批判はすれど手は出さないと言う可能性は高い。そこへきて昨今いずれの国々も自国優先、犠牲を払ってまで他人の生命を守りたくはないというナショナリズムが優先する。トドメはトランプ大統領の経済のブロック化だ。これはいつぞやの大戦前の世界情勢に近い。最早、太平洋を目の前にした楽園のビーチに、無防備で寝そべる日本という国を、飢えた輩が襲わずにいる方が可能性としては低いのではないか。 安全保障に関しては本書で述べられるように様々な議論があっても良いし、寧ろ、巻末で「日本国民の一人として、引き続きこの問題を考え続けて、アジア太平洋地域の平和と安定のために日本がどのような貢献ができるのか、自分なりに答えを探し続けていきたい」と述べる筆者と全く同じ気持ちである。本書はただ闇雲に政府の施策に反対する立場の人間や、与党に対して反対の立場を取るだけの政党のやり方を批判する。それは必ずしも与党が正しいという事ではなく、表面だけで反対するのではなく、中身を理解し共感できる部分とそうでない部分を分けて議論を戦わせるべきだと、再三述べている。確かに、政権を取った時の主張と政権から脱落した後の主張が180度変わる、政権を取る前と取った後でまるで違う意見に変わる、と言った事はこれまで見てきた事だし、私の記憶から決して消えないだろう。「また言ってるな、自分達ならやれるのか?」。国会中継を見ながら突っ込むところが多いが、逆を言えば第2党がそれだから、政権与党も安寧として、堕落していくのではないかとさえ感じる。やや本書の内容とはずれたが、そうした状況にもズバズバと切り込んでいく本書は、私にとっては読んでいて爽快であったし、何より平和を構築するためにはどうしたら良いか、世界から紛争を無くし、人々が血を流す事なく平和な日常を手に入れるためにはどうしたら良いか、そうした疑問を一緒になって考えていく、良いきっかけになると感じた。 日本国憲法前文にはこうある。『自国のことのみに専念して他国を無視してはならない』、国際協調主義に関するものだ。日本が自国の平和だけを希求し続ければ、いずれ世界から虫の良い奴ら、自分勝手のレッテルを貼られ、しっぺ返しを喰らうだろう。そして沖縄からアメリカの抑止力がなくなる事は、本書が再三リスクとしている「力の真空」を産み、太平洋の楽園を虎視眈々と狙う国々からの嫌がらせや妨害を受けるだろう。紹介されているエドワード・ルトワックの言葉『汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ』。この言葉が再び私の頭の中で繰り返し響いていた。
2015年の安保法制の成立背景と意義を冷静に振り返ることができる良書でした。 大学の学生たちに噛んで含めるように語りかけているような、平易で丁寧な文章です。著者の教え子達への深い愛情を感じます。 日本国憲法は何度か読んだことはありましたが、国際協力について強いコミットが表現されていることに、著者の指...続きを読む摘で改めて気付かされました。
【外交によってどのように平和の実現が可能なのか。また、外交によって可能なことと、外交によって不可能なことは何なのかを知ることが、不可欠となる。外交とは魔法と同じではない】(文中より引用) 2014年から2015年にかけ,右派・左派の双方から激しい言葉の応酬が見られた安保関連法の制定過程。噛み合わな...続きを読むい議論と現実に基づかない認識に歯がゆさを覚えた著者が,現代の国際環境をにらみつつ,安全保障を語る上で必要不可欠な視点の提供を試みた作品です。著者は、慶應義塾大学法学部教授を務める細谷雄一。 当時の加熱する報道・意見合戦を思い起こしながら読み進めてみたのですが,本作での主張を踏まえた議論がなされていたら,その様子はどのように変わっていただろうかと思わずにはいられませんでした。著者の憤りがかなり前面に出た作品ではありますが,外交史から国内政治まで,幅広い分野からの視点が押さえられており,安全保障について考える上で大変参考になる一冊ではないでしょうか。 平易な言葉で書かれている点も☆5つ
平和のために軍事力を持つことが必要という、一見あべこべのように感じていた理論を、わかりやすく説明してくれた本。今までの世界の歴史から、今の国際情勢、日本の立場について知れたし、理想論だけでなく現実的に世界を見て日本がどのようにあるべきかを示してて、かなり勉強になった。
安保法制について踏み込んだ話はしてないけどなんで安保法制がこんだけ反対を受けてて、なんで自分はそれでも賛成なのかってのがわかりやすく書かれてていいし、日本の今後の安保政策はいかにあるべきなのかってのを考えるヒントをくれる。今度は『安保法制』みたいなテーマでそれぞれの条文がなぜ必要と思うか突っ込んだ議...続きを読む論して欲しいな。
「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し...続きを読む、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信じる」という一文が憲法前文にあるのだから、自国のみ戦争には参加しない!と言って道徳的に優れていることを誇るのはおかしい。 この理念を憲法が謳っている限り、日本は「積極的平和外交」を行っていくべきだろう。 というか、戦力=悪ではなく、戦力=防御力であるということも理解すべきではないかと。
著者の細谷雄一氏は、国際政治史、イギリス外交史を専門とする国際政治学者で、2014年より国家安全保障局顧問も務める。 著者によれば、2015年夏に繰り広げられた安保関連法に関する論争において、安保関連法に反対する人々は、この法律を成立させれば、アメリカが将来行う戦争に日本が巻き込まれて国民の安全が脅...続きを読むかされると懸念し、安保関連法を成立させた安倍政権は、現状の安保法制では十分に国民の生命を守ることができず、状況が悪化している東アジアの安全保障環境下で平和と安定のために日本が責任ある役割を担うことができないと考えている、即ち、両者とも平和を求めて戦争に反対しているのである。そして、著者は、この奇妙な現実を踏まえて、現代の世界でどのように平和を実現すべきかを考えるために本書を著したという。(因みに、著者のスタンスは後者寄りのものである) まず、著者の考え方のベースは、我々は現在、70年以上前の国民が総動員されて悲惨で非人道的な戦闘を行った太平洋戦争の時代とは異なり、主要国が協力して国際テロリスト・ネットワーク等の国境を越えた脅威に対応するための国際協調を深めることが必要な21世紀という時代に生きているということである。 更に、著者は、日本国憲法前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」、「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信じる」という一文が示す精神は、世界のあらゆる地域の戦争を防止し、勃発した戦争を終わらせて、平和を確立することであり、日本がそのような戦争に巻き込まれないということではないと強調する。 そして、国連事務総長のアナンの「外交によってなし得ることは数多くあるが、しかしながら、もちろんではあるが、強い意志と軍事力を背後に持つ外交であればより多くのことをなすことができるであろう」いう言葉を引きつつ、歴史を振り返って、外交と個別的あるいは集団的に十分な自衛力を組み合わせることで実効的に平和を確立できるとする。 最後に、今般の安保関連法について、その成立と施行は立憲主義・平和主義の終わりなどではなく、幅広い国民的コンセンサスを生み出すための、困難ではあるが不可欠な第一歩であったと述べている。 平和とは何か、世界において日本の成し得ることは何かという観点から安保関連法を考える上で、有用な一冊と思う。 (2016年8月了)
「安保論争」について。日本の平和主義はどうあるべきかという議論は、当然、我々が今どのような世界を生きているのかといったリアルな認識が基礎となるべきであり、また歴史をきちんと踏まえなくてはならないという当たり前の主張がなされている。 しかし、この当たり前の主張がときに感情的な言論に押し流されてしまう...続きを読む場合がある。そこに著者の苛立ちがあり、かつて高坂正堯氏が指摘した「精神の腐敗」が認められる。 巻末に詳細なブックガイドもあり、きちんと安全保障論を学びたい人にとって有益。
国際政治の専門家による、安全保障の話。安全保障についての意見には賛同できる。また、わが国の安保論争について、歴史的な説明はよく纏まっており、参考になった。 ただ、いろいろな人が言っている言葉や意見が多く掲載されているが、著者がそれを使って何を言おうとしているのか曖昧なところがある。やや、論理性、学術...続きを読む性に欠ける。 「(オーウェル)私ははじめて、嘘をつくことが職業である人物に出会ったが、なんとその人のことを人々はジャーナリストと呼んでいる」p18 「(トロッキー)あなたは戦争に関心がないかもしれないが、戦争はあなたに関心をもっている」p57
結果的にめちゃくちゃタイムリーなテーマとなったが、刊行年がやや古いため、現在進行中の出来事であるロシア-ウクライナの問題は当然ながら取り上げられていない。 おそらく本書は安倍内閣時のいわゆる「周辺事態法」に触発されて書かれたのだろうけど、そのカバーする範囲はかなり広く終戦から現在までをリアリズム的...続きを読むな視点でカバーしている。特に面白かったのは、内閣法制局の解釈が年月を経るごとに硬直化・保守化をしていったというあたりで、官僚的世界の極地をのぞいた気になる。 こういった内容がもう少し基礎知識として広がっていけば、もう少し安全保障の議論も冷静に出来るのだろうけど、今のSNSの反応見ていると、そういった期待は夢なんだろうな・・と思わざるを得なかったりもする。
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