Posted by ブクログ
2016年05月22日
ア 蜂が鯨を刺すから イ 僕は人麻呂だから ウ 睡いから
吉川宏志
これ短歌なんですか、と問われたら、「はい。試験問題の選択肢短歌です」と気鋭の歌人山田航は堂々と答えるだろう。第1歌集「さよならバグ・チルドレン」で北海道新聞短歌賞を受賞後、全国的な賞をいくつも受賞した山田航は、短歌実作はもとよ...続きを読むり、回文、しりとり、早口言葉などあらゆる言葉の遊び方を心得ている。
そんな言葉遊びのプロ=「ワードゲーマー」が、さまざまな具体例と、手の内を明かした著書「ことばおてだまジャグリング」。捧腹絶倒、思わず吹き出してしまうので、電車の中では読まない方が賢明だ。
たとえば、こんな回文の傑作(下からも一読を)―「眠たいが眠ると太る、胸が痛むね(ねむたいがねむるとふとるむねがいたむね)」。回文を考えていると、「日本語が一個の完成された建築物みたいに見えてくる」という感想は、実感に満ちている。
近代の名歌をいったん文字に分解して並び替え、まったく違う短歌にしてしまうというアナグラムも試みられている。
君かへす朝の舗石【しきいし】さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
北原白秋
「きみかへすあさのしきいしさくさくとゆきよりんごのかのごとくふれ」を並び替えてみると―「呑【の】みへ行く仕事不倫と誤解され浅草の寿司企画の危機よ」。当時、北原白秋が人妻と苦しい恋をしていたことも匂わせ、感服の仕上がりだ。
日本語はこんなにも驚きに満ち、遊び心の器としても機能するのか…目からウロコの新刊である。
(2016年5月23日掲載)