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政治に対する倫理の優位を信じ望ましい政治秩序を構想する、変革の思想としてのユートピアニズム。現実を分析し、そのユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム。戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ、時代と学問の力動的関係を活写する、二十世紀国際政治学の記念碑。(新訳)
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Posted by ブクログ
本書は、第一次大戦後から第二次大戦前の20年間の戦間期を分析することで、国際関係の過去をたどり未来を見通すという試みである。 初版は1939年であるが、この翻訳は、1945年に若干の修正を経て出版された第二版のものである。 第一章〜第十四章という構成で、大枠の内容は、 ・国際政治(Ⅰ〜Ⅵ) ・力と道...続きを読む義(Ⅶ〜Ⅸ) ・法と条約(Ⅹ〜ⅩⅢ) 上記に加えて、第十四章の結論という構成だ。 端的に言うと本書におけるカーの主張は、イギリスという大国の出身でありながら、 「大国と小国」「満足国と不満足国」「支配国と被支配国」という対比の中で、20世紀以降においては、譲り合いや自己犠牲という道義に基づいて国際政治が執り行われる必要がある、と言うことである。 何故ならば、19世紀までは経済や領土の純粋な拡大余地がその対立を吸収したが、もはや飽和状態の国際関係において、誰かの発展は誰かの犠牲を伴うことが明確になったためである。 カーの立場は、現代日本において語られる近代史観や国際政治、安全保障に関する常識とは異なるか、ほぼ真逆の視点である。 繰り返し対比される「現実主義(リアリスト)と理想主義(ユートピアン)」「不満足国と満足国」という対比のうち、日本では片方しか語られない事が多い。 現代の国際安全保障学においては、「現実主義」に対比されるのは「自由主義」である。 自由主義陣営においてこの対比は、「自由主義と独裁主義」と言う言い回しが定番だ。 しかしながら、独裁主義は学問的な定義ではなく、ただの悪口である。 この点で、自由主義以外は悪、という前提に基づいた世界観とは異なる視点を打ち出した本書は、現代においてその価値を発揮している。 個人的には、よく読む大陸ヨーロッパの歴史観や思想でなく、イギリスやアングロサクソン側の視点で読んでみたい、という動機で本書を手に取った。 しかしあとがきにある通り、カーがイギリス人でありながらロシア革命やマルクスに影響を受けた人物であるというのは、全く予想外のことであった。 ラインホールド・ニーバーやバクーニンなど、馴染みの名前が登場し、安心のクオリティではあるものの、当初の期待に反して新しい発見は少なかった。 しかし、イギリスにおいて思想的に孤独であったカーの、逆風に抗いつつ書いて伝えたいという熱量は十分感じられ、長年読まれ続ける名著であることは異論がない。 カーの他の著書も是非読んでみたい。 日本語訳に関しては、カー自身の引用の誤りをいくつも指摘するなど、単純な訳にとどまらず引用原典に積極的に触れており、そのクオリティに感嘆させられた。 訳者以外にも複数で検討された内容と言うことで、大著の質とカーの情熱に応えて余りある訳であると感じた。
E.H.カーの「歴史とは何か」を読んで感銘を受け本書も手に取りました。全くの門外漢ですので、カー氏はてっきり歴史学者かと思っていたのですが、本書を読んで、カーが最初は外務省に勤務し、その後ジャーナリズムの分野に入りながら学者に転身し、歴史、国際政治分野の研究をしていたことを知りました。本書は1919...続きを読む年の第一次世界大戦終戦から第二次世界大戦開始の1939年までの二十年間における国際政治をその分析の対象にしています。国際政治学という分野自体、当時は黎明期にあったということで、「あるべき論」つまりカーの言葉を借りればユートピアニズムが横行していたわけです。これは国際政治学に限らず、経済学などそのほかの学問分野も同様で、その黎明期は「あるべき論」が先行し、理想と現実に乖離がある場合に、「現実が間違っている」という支離滅裂な思考に陥るわけです。 さらにカーは同書の中で、当時の国際政治のあるべき論は、強者(第一次世界大戦の勝利国)の利益を守るという偽善にベールをかけるためのものだったという指摘をしており、リアリズムによってその偽善を暴くべきだとしています。本書の面白いところは議論がここで終わるのではなく(つまりユートピアニズムの偽善をリアリズムで暴け、という主張で終わるのではなく)、いや100%リアリズムに陥ることも100%ユートピアニズムに陥るのと同様危険なのだ、と論を進め、「政治は権力と道義が出会う場所である」という風に論じていくわけです。個人的にはこのバランス感というか両方を見る姿勢には非常に共感を持ちました。本書は国際政治学だけでなく、あらゆる分野で「彼/彼女の主張はどちら寄りか?」を考える上での重要な指針を与えてくれると思います。とても勉強になりました。
岡義武の『国際政治史』と合わせて読むといい。"国際政治"といわれるものは第一次世界大戦後に始まるということがよくわかる。理想を追うことも現状を見ることも双方重要で、またどちらかだけではいけない。両方を視野に入れながらバランスを取った見方をすることの重要性。あいまいだったり日和って...続きを読むいるように見えたりするかもしれないが、極端なことを言う人は信用してはいけない。こういう”古典”は、今のようなご時世ではなおさら有用だと思う。
危機の二十年とはWWⅠ~WWⅡを指す。 ユートピアニズム批判は非常に鋭い。 歴史と理論の勉強に、IR研究では必須の文献。
【その時代、理想が砕け、現実が立ち昇った】国際政治の古典的名著とも言える作品。第一次大戦終了から第二次大戦に至るまでの時代、いかにユートピア思想がいかに世界を席巻し、そして無惨にも現実に押し潰されたかを丁寧に捕えることにより、国際政治における理想と現実の問題に鋭すぎるメスを入れていきます。著者は、イ...続きを読むギリスの外交官として活躍し、晩年は研究業に勤しんだE. H. カー。訳者は、自らも本書の魅力に抗うことができないと語る原彬久。 明晰でありながらも複雑な思考が展開されていきます。ユートピアの欺瞞を軽々と見破ったかと思えば、その次にはリアリズムの限界をあられもなく指摘し、ユートピアの必要性を説く。そして最終的にはユートピアとリアリズムという一見相反するものの見方をいとも簡単に統合し昇華させてしまう思考の柔軟さを目の当たりにさせられます。難しい作品なのかなと身構えながら読み始めましたが、原氏による新訳が非常にこなれていて、困難を覚えなかったところも素晴らしかったです。 国際政治の古典と呼ばれることが多いですが、政治一般を考える上でも非常に有意義な作品だと思います。ユートピアとリアリズムの相克については今日においても溢れているように思えますので、本書の今日的意義も改めて多くの分野でとらえることができるかと思います。それにしても本書の最後でカー自身が提示する控え目なユートピアのなんと魅力的なことか... 〜健全な政治思考および健全な政治生活は、ユートピアとリアリティがともに存するところにのみその姿を現すであろう。〜 もうね、表紙の写真がメチャクチャ頭キレキレってカンジですよね☆5つ
大学時代の教科書的に読んだのが初読だったが、政治向きのニュースを見る度に手に取る本でもある。引用にあるように、簡潔に、しかも色褪せぬ評価が至る所に散りばめられており、国際政治の本という本旨を持ちつつも、洞察に満ちた哲人の書のようにも思える。
国際政治の古典として必ず名前が挙がるのが本書。 E.H.カーは、リアリスト(国際関係は各国のパワーによって決まる弱肉強食の世界である!論者)であるとよく紹介されている。実際に本書は、ユートピアニズム(手をつなげば世界は平和になるんだよ~♪論)が国際連盟において支配的であったために、第二次世界大戦の...続きを読む勃発を食い止められなかったと批判している。 だが、彼はユートピアニズムを否定したわけではない。確かに合理的に考えれば、リアリズム的世界観の方が納得いく。しかし、人間には非合理的な面もある。ユートピアニズム的な理想論・倫理的な態度のおかげで行動を起こせるという事実もある。リアリストではこれらの面を把握しきれないのである。国際政治はパワーで動く。しかし、理想主義的な思想も見逃してはならない。彼は、両者をともに重視した。
実は今の時代にも十分通用するではと思う本。 この本の内容にテロリズムと宗教を加えれば十分に通用します。
本書は国際政治学、国際関係論における古典である。第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期である1919年から1939年の20年間における国際情勢の分析を通じて、当時の国際政治における19世紀的な自由主義に基づいた理想主義(ユートピアリズム)を批判し、現実主義(リアリズム)の必要性を訴えた。しかしその一...続きを読む方で、国際政治における理想主義の必要性を認め、現実主義と理想主義の調和の必要性も主張している。 国際政治学、国際関係論におけるリアリズムとリベラリズムの関係を考えるうえでも本書の訴える内容は60年以上経た今日においても示唆に富むものである。 難解で読みづらい点も多いが、国際政治学、国際関係論を学ぶ方、学びたい方は必読の古典であろう。
大学の授業にて購入。 国際関係を理解するうえで必読の書といえる。 カー自身は現実主義者だが、国際関係において現実主義と理想主義の綜合の重要性を説いた。
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危機の二十年
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E.H.カー
原彬久
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