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ドイツ文学専攻で大学院の修士課程に通う主人公は、地味な見た目と性格から、ドイツ語で“黒い”を表す形容詞shwarzに“さん”づけで「シュバルツさん」と呼ばれている。そんな彼女は、自分の論文を読んで「君の日本語は美しい」と言ってくれたドイツ文学教授に憧れているのだが、彼は64歳。ふとしたきっかけから教授に好意を打ち明けると、「君のそれは恋ではない」と否定され、主人公は考え込んでしまう…。
若いときは若いときで、そして年を取ったら取ったで、「自分が人からどう見られているか」ということに右往左往させられてしまう、ということはありますよね。私に好意を向けてくれているこの人が何だかステキに見えてきたとか、子どものときからしっかりしていると言われてきたのでしっかりしていなければならないと思っていたとか、本当はスポーティな服が好きなのに背が低いからやめておこうとか、自分の思考でさえ、他人の影響を受けないことは難しいと思うのです。
この作品では、若い主人公だけでなく、人生をとっくに折り返したはずの教授も、登場人物がみんな試行錯誤しています。何が恋で何が恋じゃないのかを知りたい人だけでなく、「私」って何だろう?と考えたり悩んだり拗らせたりしたことがある人にぜひ読んでもらいたい作品です。