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交錯する民族と宗教、今決戦が始まる。
マハバード奪還をめざすクルド人への武器の供給が、いよいよ間近に迫る。だが、武器密輸商人ハジの前にあらゆる障害が立ちはだかり、思うようにクルド人の元へたどりつけずにいる。
一方、そのクルドの民を押さえ込まなくてはならないイランの革命防衛隊が、内部の腐敗により、その機能が低下しはじめる。機能を失いつつある革命防衛隊を立ち直らせたいと、崇高な理想を掲げるサミルが、まさかの裏切りにあい、窮地に追い込まれる。
いざ決戦の時。クルド人のもとに、ようやく20000丁のカラシニコフが届く。彼らはマハバード奪還を成し遂げられるのか。イラン革命防衛隊は、それに応戦できるのか。マハバードの地でクルド人のカラシニコフが一斉に火を噴く。
絡み合った糸が、ほどけていくように、奇跡の再会を果たすサミル・セイフと姉のシーリン・セイフ、そして隻脚の日本人ハジと武器密輸商人ハジの一瞬の邂逅、そして、かつて愛し合ったシーリンと隻脚の日本人ハジとの不思議な縁・・・。
全ての伏線が一つになり、驚きの結末に。読む者は必ず、その壮大なストーリーに打ちのめされる。船戸与一最高傑作とも呼べる超大作。
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Posted by ブクログ
この小説に描かれている時間は、決して長くはない。中心となるのはおよそ10年ほどの出来事である。しかしその短い時間の中に、裏切りと懐疑、そして殺戮が絶え間なく繰り返され、関わる者は誰もが最終的に敗者となっていく。
第七の奏では、イスラム革命後のイランにおけるゾロアスター教徒の怨念が描かれ、宗教による排除の現実が提示される。
第八の奏では舞台がコーカサスへ移り、アゼリ人とアルメニア人の対立、そしてソヴィエトの統治の歪みが浮かび上がる。
第九の奏では、革命防衛隊内部の乱れが露呈し、体制そのものの不安定さが示される。
第十の奏では武器商人が裏切りによって命を落とし、暴力が流通として機能している現実が露骨に現れる。
第十一の奏ではクルド人ゲリラの決起前夜が描かれ、宗教的にも状況的にも許されない関係が、やがて決別へと至る。
第十二の奏では駒井が武器商人としてカスピ海沿岸を奔走し、もはや傍観者ではいられない地点へと踏み込む。
第十三の奏では、革命防衛隊・人民戦線・クルド勢力が交錯し、混沌が頂点に達する。
そして終の奏。時間は1991年へと進み、物語は再びシーリーンとの邂逅へと回帰する。
この作品は、歴史小説ではなく そこに関わる組織の断片を並べることで時代の全体像を浮かび上がらせてる。各「奏」は独立しながらも、確実に同じ時代の流れに接続している。そのため読者は、物語を追うというよりも、歴史の断面を次々と目撃していく感覚に近い。
なぜ本作がミステリーとして挙げられるのかは、やや掴みにくいと思う。謎解きや事件の収束はない。ただし、時間や視点が断片化された構成そのものが、一種の「読み解き」となるかと。
今回特に印象に残ったのは暦の扱いである。グレゴリオ暦、ジャラリ暦、ヒジュラ暦が混在し、時間の基準そのものが揺らいでいる。このズレは単なる表記以上に、統一されない世界のあり方を象徴しているように思う。
そして最後に残るのは、日本人である駒井と「ハジ」と呼ばれる存在である。彼らは第三者であろうとしながら、結局は歴史の内部に取り込まれていく。その姿は、外部から眺めているつもりでありながら無関係ではいられない、現在の日本の立ち位置をもどこか示唆しているように思えた。
タイムリーな一作を読めて良かったです。
Posted by ブクログ
もうお腹いっぱいです。
文庫上・下巻で合わせて1210ページの大部。
本書は1991年に毎日新聞社から単行本として刊行されました。
25年も前の作品ですから、割と古い作品といえましょう。
ただ、決して色あせないのは、本書の内容と同様、今もなお宗教、民族、その他の問題で、世界中でおびただしい量の血が流れているから。
しかも、かつてのような国家間の戦争・紛争というよりは、テロという形で世界中に脅威が拡散しており、より困難な時代に直面しているといえましょう。
さて、本書はイスラム革命後のイランが舞台。
世界中に2500万人という人口がいながら、迫害されてきたクルド人が、聖地マハバードで独立国家樹立を目指して武器の調達を目論みます。
そのクルド人ゲリラの指揮官が、清廉潔白なハッサン・ヘルムートという男。
武器調達を請け負ったのは、目的のためなら殺人もいとわない冷酷な日本人武器密輸商人で、「ハジ」と呼ばれる駒井克人です。
イスラム革命後に腐敗した革命防衛隊を正すため、実力行使に打って出るのが、若き革命防衛隊小隊主任のサミル・セイフ。
そして、かつては非スターリン主義的マルクス主義組織フェダイン・ハルクに所属し、ある事情によって隻脚となった、これもまた「ハジ」と呼ばれる日本人の男。
物語はこれらの登場人物の視点で多元的に展開し、マハバードであいまみえて壮絶なラストを迎えます。
読み終えた後は、歴史に翻弄された者たちの哀しみがひしひしと胸に迫ってくるでしょう。
余計な感傷を極力排し、乾いた筆致で感動を呼び起こす作者の力量にも感服する次第。
日本人にとっては複雑な中東情勢の一端を理解するための一助にもなりましょう。
おススメです。
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