Posted by ブクログ
2017年08月22日
北川由紀名は「鬼畜の家」という形容がぴったりの歪んだ家庭環境の影響で、幼い頃から引きこもりとなった。姉の亜矢名が勉強を教えていたため、ある程度の学力は身につけていたものの、彼女は小学校すら卒業しておらず、外へ出ることは全くなくなっていた。
幼いときに医師である父を亡くし、やがて大好きな姉を事故で...続きを読む亡くし、母と兄が乗った車が崖から海に転落し、結局家族全員を亡くしたとき、由紀名は17才になっていた。
施設で暮らすようになった彼女は、保育士理恵子の援助で徐々に心を開くようになり、高卒認定の試験を受けて、大学に行くことを考えるまでになる。
彼女は自立のための資金に、母と兄が亡くなった際の保険金1億円を充てるつもりでいたのだが、潮に流されたのか、死体が発見されていないため、保険会社が支払いを躊躇する。保育士の理恵子は、由紀名のため、元警察官で現在は私立探偵をしている榊原に、保険会社との交渉を依頼する。この榊原が本書の探偵役である。
実は本書の主人公とも言える探偵榊原は、それほど多くのページに登場しない。いや、登場はしているのだが、あまり姿を見せない。本書は主に、「鬼畜の家」北川家の関係者の榊原への語りで構成されているからである。だから、榊原はそこにいるのだが、専ら関係者の証言を聞いている。例えば、本書はこんな風に始まる。
木島病院院長 木島敦司の話 「北川秀彦君の件か…..榊原さんと言ったね?探偵ねえ…..」
こうした関係者の語り、証言が続いた後、榊原が本格的に(と言っても穏やかにだが)語り出すのは本書のもう終盤、事件の真相を語るときである。
面白かった。私は幸い推理力などかけらもないので、結末には素直に驚くことができた。このようなミステリーを「イヤミス」(読後イヤな気持ちになるミステリー)というらしい。そんな呼び名にたいして意味はないと思うが、これから読む方は参考までに。
本書は島田荘司が選考する「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作である。好みもあるだろうが、私は大変楽しんで読んだ。探偵榊原が登場する本はあと2冊あるようなので、それも是非読みたいと思っている。