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あなたといたい、ただそれだけ。
料理を作って食べさせてあげることは、「好きだよ」って伝えること。
孤独や喪失、生きることの悲しみにそっと寄り添い、明日への希望を繋いでいく。
最愛の弟が急死した薫子が出会ったのは彼の元恋人・せつな。悲しみに暮れる薫子は彼女に誘われ家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。人々の生活を整えることで薫子の心も救われていくが、せつながある秘密を抱えていることを知りーー。他者を愛おしく思う気持ちが結ぶあたたかな再生の物語。
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Posted by ブクログ
『カフネ』
ひとはなぜ、誰かのために食をつくるのか
1. 孤独の暗闇に差し込む「温かな一杯」
大切な存在を突然失い、心も体も置き去りにされたような失意の底で、人は「食べる」という基本的な営みすら忘れてしまう。
『カフネ』の主人公・薫子もまた、愛する弟の死と人生の挫折の中で、暗闇の中に立ちすくんでいた。
そんな彼女の喉を潤し、凍りついた心をゆっくりと解きほぐしたのは、弟の元恋人であるせつなが作った一杯の温かな汁物だった。
絶望の淵にいるとき、大袈裟な言葉や慰めよりも、ただ空腹を満たし身に沁みる温かな食事が、どれほど人を生繋ぎ止めるか。物語の序盤から、食が持つ本質的な力が静かに描き出される。
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2. 「カフネ」での仕事と、誰かの役に立つ意義
家事代行サービス『カフネ』を通じ、二人は様々な孤独や傷を抱える家庭を訪問していく。
埃っぽい部屋を整え、台所に立ち、温かな料理をこしらえる。その営みは、単なる家事の代行にとどまらない。
荒れ果てた暮らしを整えることは、そこに生きる人のすり減った心を整えることそのものだ。
「自分のしたことが、誰かの役に立っている」という実感が、翻って自分自身の抱える過去の傷や孤独をも癒やしていく。
誰かを救う行為が、実は自分自身を救う道筋になるという巡り合わせに、胸が熱くなる。
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3. ひとは、なぜ、食をつくるのか?
私たちはなぜ、他者のために料理をつくり、共に机を囲むのだろうか。
ただ栄養を補給するだけなら、効率的な選択肢はいくらでもある。それでも包丁を握り、出汁をとり、相手の体調や好みを想いながら火を使うのは、そこに「あなたに生きていてほしい」「あなたの孤独に寄り添いたい」という無言の祈りが込められているからではないだろうか。
タイトルの「カフネ」とは、愛する人の髪にそっと指を通す愛おしい仕草を指す。
言葉にならない情愛や寄り添いの心を、形にして届ける日常の最も身近な手段こそが「食をつくる」という営みなのだと気づかされる。
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4. 問いと読後感:私に、守りたい人はあるか
物語を読み終えたあと、静かな問いが胸の奥に残る。
守りたい人のために、今、できる範囲、ことは何なのか?
完璧な人間などおらず、誰もが他人に言えない傷や寂しさを抱えて生きている。
だからこそ、大袈裟な救いではなく、手と手のぬくもりを分け合うような、一杯の温かいスープを差し出すような距離感で誰かを慈しみたい。
『カフネ』は、傷つきながらも今日を生きるすべての人に、やさしい光と生きる勇気をそっと与えてくれる傑作である。
Posted by ブクログ
事前情報で美味しそうな料理の描写が多く、惹きつけられる。と勝手に思い込んでいたが福祉的にも人生にも感銘を受ける作品だった。
薫子とせつなの関係性も序盤と終盤でも様変わりしていく様子が見える。二人は多くの大切なものを失う中で希望に寄り添うように導かれるラストシーンは感慨深いものがあった。
ラストは納得いかない?声もあったが二人らしい終わり方だったかなと。
弟の死については明確なものがないまま、憶測で進んでいく。これがもし事実が明らかになったり、2人のどちらかが弟と同じ道を歩むという展開になったらまた面白いのではないか。しかしそうしなかったのはカフネがあるからだと思う。
料理、福祉、人とのつながり、ミステリー
の要素を少しずつ掻い摘んでできた物語は読む手が止まらなかった。
読む時によって考えや思うことが変わる作品だと思う。
Posted by ブクログ
主人公野宮薫子の最愛の弟春彦は急死してしまった。遺言書には遺産の受遺者に元恋人の小野寺せつなの名前があった。薫子は春彦の願いをかなえるため、せつなに面談したがせつなからは相続を拒絶されてしまう。薫子はせつなと言い争いしている時、卒倒してしまう。
薫子は法務局に勤める四十一歳の国家公務員。弁護士の公隆と結婚、不妊治療をしたが流産してしまう。一年前に離婚してからは、更年期障害でヒステリックになり、一人の焦燥から酒に溺れ、自堕落な生活を送っていた。野宮という姓は、飲み屋から付けたのではないのかと憶測している。
それを救ったのは、せつなで家事代行サービスのカフネのチケットという土曜日限定のボランティア活動に参加することで前向きに生きるよになる。生き方も物理的要因よりも人間関係と心理的要因によって変わるらしい。ちなみに、せつなという名前は、刹那という意味ではなく切ないという意味から付けたのではないかと憶測する。せつなは、料理専門で、常につっけんどんな態度で他人に接している。薫子とせつなの凸凹コンビの友情の話でもある。
二人はカフネで貧困家庭やネグレクト家庭に訪問していく、このことから子供を産むことも親のエゴであるということが物語の主題となってくる。
春彦についても彼は誰からも愛される人間だったことで、常に他人に必要とされる人間を演じながら生きることを強いられ、それによって自分のやりたいことを見失っていた。愛とは望まれることであるならば、愛が縛っていたのだ。薫子は両親から同居して再婚を望まれるが縛られる生き方はもうしないのだ。
まじめで頑張り屋ほど誰かの力を借りる事が苦手である、そういう人に助けをさしのべるのかカフネであった。これはせつなも同様であった。カフネとは大切な人の髪にそっと指を通し、いとおしむしぐさを意味する。家事代行サービスの社名にしては、なんとも艶っぽい意味なのだが、薫子はせつなにとってのカフネの代わりになる生き方を望むのであった。薫子がせつなの髪に指を通している姿を感じさせる。
この物語のすべての登場人物は理性的で理想的な生き方をしているのになんらかの不幸になっている。理想的な生き方をしたために束縛され続けた。よくよく考えると薫子も同じである。薫子は高校生の時にピアスを開けた事で両親に叱られた。同居を断ったのは単純に意趣返しというわけでない。薫子が春彦から誕生日に贈られたエメラルドのピアスこそ反逆の印である。反逆それこそが本当の自立であり大切な物を見つけられたのだ。
心暖まる話ではあるが一方で文章が堅苦しく娯楽作品としてお勧めはしない。
Posted by ブクログ
少し肌寒いなと感じたとき、開け放っていた窓をそっと閉めてくれるような。
押しつけがましくない優しさに心がほっと温まる。
優しさを媒介するのが、せつなの作る美味しい料理の数々だ。
お腹が満たされることによって、何かに押しつぶされそうになっていた身体と心を休められ、生きるための力を蓄えられる。
栄養たっぷりのチャーハンおにぎりを作れるようになることで人生の戦闘力が上がり、辛い日はカロリーの悪魔に魂を売ってもいい。
弱り切っていた薫子の回復ぶりは見ていて小気味よかった。
後半はせつなと春彦の話となり、二人の本当の姿が見えてくる。
相手の幸せを願うなら、一線を踏み越えてでも言葉をかけ続けおせっかいを焼く。
春彦の死の真実を知った薫子が見つけた、せつなとは異なる形の思いやりが心に沁みた。
自分でも気づかない内に重い物を抱えていて、意識した時には身動きが取れなくなっていることもある。
そんな時は迷いなく、人を頼りたいと思った。
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