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Posted by ブクログ
光文社古典新訳文庫 フロイト 宗教批判論文3編。
キリスト教の抑圧性や神経症患者との共通性から、宗教や文化を批判する論調。3編が共通テーマであり、フロイトのユダヤ人問題や宗教論を理解できる構成。中山元 解説のおかげで読めた。
随所に 科学重視、合理主義、個人主義の立場から、キリスト教批判は見受けられる。
各論文のテーマとアプローチ
*幻想の未来
宗教は幻想であり、科学に未来を託する論調。強迫神経症とキリスト教儀式の共通性からアプローチ
*文化への不満
キリスト教道徳の抑圧性が文化への敵視、不満とする論調。欲動論からアプローチし、文化の発展は人間の種の生存を賭けた闘いであるとした
*人間モーセと一神教
反ユダヤ主義の原因を考察。トーテミズムから始まり、ユダヤ教の多神教から一神教化とキリスト教誕生を経て、反ユダヤ主義に至る宗教史からアプローチ。
幻想の未来
*カントの啓蒙の立場から宗教批判
*啓蒙=人間が自ら招いた未成年の状態から抜け出る
*宗教=人間が自然や文化から身を守る仕掛け
*宗教の教えは幻想〜理性では宗教の教えは証明できない
*幻想は 人間の願望から生まれる
文化と宗教の関係を変革する
*科学的な理論の変遷は発展、進歩であり、転覆でない
*科学は幻想でない
強迫神経症と宗教的儀礼の共通性
*宗教は普遍的な強迫神経症
*宗教の教えは神経症的な遺物であると理解すること→宗教の意味を理解し、歴史的価値を認識
文化への不満=集団妄想の狂気
*大洋性の感情=外部の世界の全体とともに生きている、結びつきの感情→残存した原初的な自我感情
*宗教の集団妄想性を批判〜キリスト教の性道徳→欲望の抑圧→神経症へ逃げ込む
*欲動論〜文化の発展は、人間の種の生存を賭けた闘い
*人間が頼れるのは、神の救済でなく、エロスが死の欲動に対抗することだけ
欲動論
*エロスの欲動と破壊欲動の対立
*エロスの欲動=自己保存欲動、性欲動
*破壊欲動=死の欲動(タナトス)
*文化の発展は、人間の種の生存を賭けた闘い「エロスと死の闘い、生の欲動と破壊欲動の闘い〜この闘いは人生そのものの本質的な内容」
反ユダヤ主義の原因
*キリスト教化された諸民族の嫉妬
*割礼による去勢不安
*キリスト教への不満、土着信仰への愛着
Posted by ブクログ
しかしここで指摘された矛盾のうちで、とくに重視されている矛盾について考えてみよう。人間は理性的な根拠にはあまり影響をうけず、欲動の願望に完全に支配されている存在である。だとすると、人間に欲動の充足を禁じて、理性的な理由を与えようとしても、意味があるのだろうかという疑問についてである。ただしこれについては、人間はたしかにこうした存在であるが、そうでなければならないのか、人間のもっとも内的な本性からして、こうした存在であらねばならないのかは、自明なことではないことを指摘しておきたい。(p97)
(前略)たしかにわたしたちは、人間の知性の力は、欲動の生の力と比較すると弱いものだと、繰り返し強調してきたし、それは正しい主張なのである。しかしこの知性の〈弱さ〉には、ある特別な要素があるのだ。知性の声はか細いが、聞きとどけられるまでは、黙すことはないのである。繰り返して拒否されても、やがて聞きとどけられるものなのだ。そこに人類の将来について楽観できる数少ない理由の一つがある。(p109)
ここでフロイトが展開した宗教批判、宗教教育批判の重要性は、現在でもまったく意義を減じていない。
それは、フロイトが批判した「宗教」とは、「人間の本性はこんなものだから仕方がない」という現状容認的な考え(思考停止)の普及による支配の形態、『宗教による思考の禁止の力』(p99)ということに、その力点を持つものであり、現在は、通常宗教の名で呼ばれるものにとどまらず、自国(自民族)中心主義とか歴史修正主義とか新自由主義とか、ある種のリベラリズムとか、さまざまな形態をとって、そうした支配の形態(思考の禁止)が幅を利かせていると思われるからである。
フロイトは、文化を「自然から人間を防衛する」ものととらえるわけだが、欲動のままに自由を求める人間にとっては文化による強制は敵視されるほかないものだから、「人間を文化と和解させ」る方策が必要であると言う。
それがつまり、「宗教」をはじめとするさまざまな「幻想」の存在理由であるが、フロイトは、そうした幻想が人間にとって不可欠なものであることを認めながらも、むしろだからこそ、「知性」によって自分が幻想のなかに生きているという現実を常に批判的にとらえ続けることの大事さを説いたわけである。
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