その犬をください
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その犬をください

小説・文芸
2,145円 (税込)

10pt

4.4

『同志少女よ、敵を撃て』著者による、近代日本と戦争をめぐる人と犬の物語。

1. 未開の咆哮/明治初期の東京府。御雇外国人として開成学校の教師に着任した英国人のジョージは、自分を見るや吠えかかる日本の野良犬たちに手を焼いていた。生徒であり通訳を務める士族の青年・藤川、そして祖国から連れてきた愛犬チェスターとローラを生活の支えとしていたジョージだが、ある日の夕暮れ時、帰路につくため駕籠を待っていたところ突然現れた浪人に立ち塞がれ――。

2. 忠犬誕生/昭和7年、渋谷駅。乗降客の間に混じって人待ち顔の老犬がいる。この犬についての新聞の小さな記事は、想像を超えた「ハチ公」ブームを作り出した。しかしその物語は記事のきっかけを作ったはずの日本犬保存会の会長・斎藤弘吉の想像を超え、動物愛護や映画産業に身を浸す人間を巻き込み、国家の思惑を含んで加速し、現実を超えてゆく。

3. 犬たちの戦争/アメリカとの戦争が始まった。熱烈な軍国少年となった坂間明は、いつも愉快な空想話を聞かせてくれた平吉兄さんが笑顔を失っていくことだけが気がかりだった。そんな折「犬の供出運動」が始まり、坂間家もお国のために愛犬ドーラクを差し出すように促される。明の父はあの手この手で供出を断るが、ついに巡査が家を訪れて説得をはじめる。

4. スランプ/令和の初夏。念願叶って進学校に入学した高校生の楓は、突然学校に行けなくなった。「戦争」という言葉が頭について離れず、自分を押しつぶしてゆくような恐怖を感じるのだ。家で飼っている引退警察犬リッキーも自分と同じく元気を失っており、楓はその世話をすることで気を紛らわせていた。しかしある朝突然、同級生の三門澄が家を訪れ、学校を休んでどう思ったかを問われて――

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  • カテゴリ
    :
    小説・文芸
  • ジャンル
    :
    小説 / 国内小説
  • 出版社
    :
    KADOKAWA
  • 掲載誌・レーベル
    :
    角川書店単行本
  • タイトル
    :
    その犬をください
  • タイトルID
    :
    20198091
  • 電子版発売日
    :
    2026年09月16日
  • コンテンツ形式
    :
    EPUB
  • サイズ(目安)
    :
    5MB

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その犬をください のユーザーレビュー

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    Posted by ブクログ

    「犬は人間の友なのだろうか。それはわからないけれど、人間は犬の友であらねばならない。そして、私はリッキーの友であり続ける!」
    読みやすく、人間と犬の関わりを通して、人間の思い込みや第一印象の浅はかさを浮き彫りにした短編連作だった。
    ペットを飼ったことのない私でも犬が欲しくなったし、ペットを家族と呼ぶ気持ちが少し分かったような気がする。
    特によかったのは最初の短編。主人公が自分は犬のことを分かっていると思っていたところから、少しずつ自分の認識の間違いに気づいていく。そのたびに読者側の見方も修正されていく。こういう「最初に持っていた人物や物事への印象が、情報が増えるにつれて崩れていく」手法自体は決して新しいものではない。それでも非常によく効いていた。
    二話目以降も、犬と人間の別の矛盾を見せながら、「分かったつもりになる人間」の危うさを描いていく。犬種、飼い方、自然保護など、自分の正しさを疑わない人間の姿が次々に出てくる。一部の自然環境活動家のような、理念を優先して現実の動物を見なくなる態度を殴り返すようなところには痛快さもあった。
    そして、読み進めていくと、この連作の中心にはやはり「戦争」があることも見えてくる。
    犬の歴史を描いているようで、人間が犬をどのように飼い、利用し、分類し、ときには切り捨ててきたのか。その変化の背景には、その時代の社会や国家、そして戦争がある。犬を通して近代から戦争へ向かっていく人間社会を見る構成になっていて、結局この人は犬を書きながら戦争を書いているのだと思う。
    そこはやはり逢坂冬馬だと思った。犬との温かい交流だけに逃げず、その背後にある歴史や戦争まで持ってくる。
    そして最終話では、黒人と日本人のハーフであるエディを登場させる。
    ここで、犬に向けられていた「見た目や属性だけで相手を判断する愚かさ」が、人間同士の問題にまで広がっていく。過去の犬と人間の関係、戦争まで描いてきた前三篇を、現在の人間社会へつなげる狙いなのだろう。
    この構成自体は分かるし、最終話も印象に残らなかったわけではない。
    ただ、どうにも安っぽく感じた。
    前三篇では、犬を見る人間の姿を通して、読者自身が「自分も思い込んでいたのでは」と気づかされる。その間接的なところがよかった。ところが最終話では、現代、差別、そしてエディという要素が前面に出てきて、「犬についてやってきた話を人間にも当てはめます」という作者の意図が急に見えすぎるように感じた。
    テーマとしては間違っていない。だが、物語が弱く感じてしまった。
    最初の短編があまりによかったせいもあると思う。最初の一篇だけで、「人間は勝手に分かったつもりになる」というテーマがかなり強く提示されている。その後も別の角度から同じ問題を描いていくのだが、最初の衝撃を更新するほどの一撃は最後まで来なかった。
    もう一つ気になったのが、短編連作としてのつながり方。
    前作『ブレイクショットの軌跡』でも感じたが、人物や出来事がつながっていること自体は分かる。ただ、「つながっていた」と分かることと、「この短編がここにあったから後の短編の意味まで変わった」と感じることは別だと思う。
    今回は前作より自然になったと感じたが、それでもかなり恣意的にも見える。
    犬の歴史、人間の思い込み、戦争、そして現代の差別へと一本につながっていく構成はよくできている。だが、あまりにもすべてが最終的なテーマへ向かうように配置されているため、「この人物がここにいたから自然につながった」というより、「ここにつなげるためにこの人物と出来事を置いた」という作者の手つきが見えてしまう瞬間があった。
    戦争を中心に据えるために、それぞれの短編がそこへ集められていく。その設計の巧さには感心する一方で、設計図まで透けて見えてしまう感じがする。
    もっと伏線回収でゾワッとするのか、構成そのものでもっと驚かせるのか。そこは分からないが、連作であること自体がもっと物語の力になってほしかった。
    とはいえ、この本を単なる「犬っていいよね」というハートフルな小説で終わらせなかったのは、さすがだと思う。ほんとに唯一無二、スペシャルワンな作家だと思う。
    犬と人間の温かい関係を描きながら、その裏にある支配、利用、善意の暴走、偏見、そして戦争までしっかり入れてくる。犬を好きになる話であると同時に、人間の愚かさまで見せてくる。その嫌な部分を切り落とさなかったからこそ、ただ優しいだけの犬小説にはならず、非常に重厚な小説になっていると思う。
    私は逢坂冬馬の大ファンで、サイン会にも行くくらい好きだし、直木賞を取ってほしいと願っている。それだけに要求も高くなってしまう。
    今回、伝えたいことが分からなかったわけではない。
    犬を通して、人間の思い込み、善意、偏見、そして「分かったつもりになること」の危うさを描き、そのさらに奥には戦争という大きな問題を置いた小説だったと思う。
    ただ、それを最後まで強烈な物語として残し切ったかと言われると、少し物足りなかった。構成が緻密だからこそ、逆に作者の意図が見えすぎてしまったところもある。
    それでも、犬を飼ったことのない人間に「犬が欲しい」と思わせ、しかもそこで終わらず、人間の嫌な部分や戦争まで見せてきた。
    その点は、同じ人間なのかと思うくらいずば抜けているというか何というか。超人すぎて、としか言い表せない。
    いろいろモヤモヤしたところもあったが、読めてよかったと思った。

    0
    2026年09月27日

    Posted by ブクログ

    明治から令和までの人と犬の歴史をテーマとした短編集です。戦争を犬という切り口で描かれています。戦争の中で人々が大きな流れに呑み込まれ、自らの正しさを上書きしていく過程が痛々しい。自分の意見を失い、諦めとともに理性が壊れていく…その様子は強いリアリティをもって私に迫ってきます。

    野犬、日本犬、洋犬、ハチ公、供出される愛犬たち、警察犬。人の傍にはいつも犬がいます。しかしその時代ごとに人に都合よく定義され利用されて…。そんな自然体の存在を人と共に描くことで、人間の思考や意識が変遷していく恐ろしさが、より一層際立っています。

    犬にまつわる知らない歴史がたくさんあり、新たな気づきをくれるとても印象に残る作品。またぜひ読み直したいです。


    0
    2026年09月20日

    Posted by ブクログ

    犬をテーマにした短編集です。
    ただ、犬というのは、私たちを物語に繋げるモチーフ。通底しているのは、差別や軍国主義に対する反発なのかなと感じました。
    多数派に対して、小さな反発をする人々。逢坂さんの作品にはいつもレジスタンスがいます。

    0
    2026年09月26日

    Posted by ブクログ

    いろんな時代の「その犬をください」が4回訪れる。自分が今の日本を、世界を見ながら漠然と抱きながらも言語化にいたることはなかった感情がほんとうにそのまま、ありありと言語化されていてびっくり。ほんとうに、第1作から一貫して逢坂冬馬の思想と深く共鳴し続けている。あの戦争を、否、「日本人」がこれまで経験してきたこと、考えてきたこと全てを"今"からは切り離せないのだなと一旦絶望した。打ちひしがれた。が、少なくとも逢坂冬馬の思想が一般社会に頒布される社会である限り、まだ希望はもてる世界なのではないかなと思わずにはいられない。現代パートの主人公が自分すぎてさすがに震えた。ずっと作品を生み出し続けてほしいと心から思う唯一の作家かも。「歌われなかった海賊へ」、祝文庫化!わたしのいっちばんすきな逢坂冬馬作品( ◠‿◠ )

    0
    2026年09月18日

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    逢坂冬馬の作品を読むのは『同志少女よ、敵を撃て』に続く2作目。戦争物が多いんかな?けれど、4つ目の令和のストーリーもよかった。ショート動画や生成AIのフレーズがでてきて、これぞthe 令和だなと思った。ショート動画が「何も得るものはないけれど不安は紛れる」「思考が霞みがかった世界への逃避」と述べられていて、小説家はやはりうまい言葉を当てるなと思った。

    お気に入りの短編は『忠犬誕生』
    ハチ公の話が、ある程度日本国によって話が盛られていることにショックを受けた。忠犬ハチ公の美話により、国民が天皇と日本国に忠義を示すことを美徳としたらしい、、

    『犬たちの戦争』は犬が戦争のために何の意味もないのに殺されるのが酷くてしんどかった。

    0
    2026年09月23日

その犬をください の詳細情報

  • カテゴリ
    :
    小説・文芸
  • ジャンル
    :
    小説 / 国内小説
  • 出版社
    :
    KADOKAWA
  • 掲載誌・レーベル
    :
    角川書店単行本
  • タイトル
    :
    その犬をください
  • タイトルID
    :
    20198091
  • 電子版発売日
    :
    2026年09月16日
  • コンテンツ形式
    :
    EPUB
  • サイズ(目安)
    :
    5MB

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