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Posted by ブクログ
いきなり21章から始まる。え?と思い、本書にさっと目を通せばよいものを、前作が20章で終わっていたに違いないと勝手に思い込み、前作を引っ張り出して読み返すことから始めた。
もちろん、勘違いではあったけれど、復習してから本書に入り込めたのは、結果としてよかった。結局、本書は21章、20章と時系列を遡っていくタイプだった。しかも、小石大ピンチのセンセーショナルな場面から始まるものだから、「戻らない」って、そういうこと⁈ と衝撃が走る。いったい、なぜこんなことになったのか。時系列が過去に遡るにつれて、その経緯が明らかになっていく。今までとは違ったドキドキ感がある。
読む前は、今回は騙されないぞと意気込んでいた。時系列を遡る構成もあって、意識はWHYに向いている。これなら完璧なはずだった……しかし、完敗だった。気持ちのいい負け。著者の鮮やかな手口に、むしろ清々しい気分になる。楽しかった。
今回は書籍で購入したのだが、紙でよかったと感じた。タイトルを回収する素敵な一文が、ちょうど1ページめくった先にある。その演出も含めて、味わい深い読書体験になった。
Posted by ブクログ
「ねえ、七瀬。わたし、どこで間違えたんだろうね」
自問として、自分の胸にも刺さる問い。
「知らないよ。一つ一つ、遡って振り返って見れば?」
深いため息をひとつこぼす。
吐いた量の分、吸い直す。
静まった場に、言い捨てる。
「正論きらーい」
「生野菜サラダにオニオンドレッシングかけてるときさ、野菜に野菜かけて食べるのって何らかの倫理に違反してないかな、って不安になるよね」
「身体もばきばきだし。もういますぐマッサージ行って"お客さん相当凝ってますねぇ”って言われたい。あれさ、”凝ってますねぇ”って言う方も言われる方も、なんであんなに嬉しそうなんだろうね」
「まあ、もし何か書くとしたら、叙述トリックは絶対入れるかな。王道の誤認系のやつをしっかり押さえて、読み手を騙してやりたい」
「性格の歪みが窺えますね」
「今、叙述トリック書いてる作家を全員敵に回したけど大丈夫?」
「だからさ、もしこの先わたしが誰かにはめられて、誰かを殺したって疑いがかけられても、わたしを疑ったりしないでね。わたしは殺人どころか、その言葉を冗談で言うことすらしないんだから」
「別に、怒ってはないよ。まあただ、今澪自身が言ったとおり、わたしのことは、わたしに決定権があるから」
「そうですよね。ほんと、失礼しました」
「澪も一緒だよ。自分で決めたいことがあるなら、決められるように努力するべき」
「やば、含蓄感じる」
小石の顔が目の前にくる。吸い込まれそうな瞳と、シャーペンの芯が数本置けそうなくらい上向きで長いまつげ。
「かもしれない運転すぎ」
頬から手が離れ、こつん、と額に挙が当てられる。
「もしもを重ねて、全部自分の責任だって思おうとするのはやめなよ。自責ってそういうことじゃないよ。仮に竜児さんが犯人だったとしても、蓮杖くんの失敗は一切関係ない」
「そもそも他者なんて、一緒に過ごしてない時間の方が長いし、一緒にいたとしても、相手の心の中までは分からない。だから言葉を使って少しでも埋めようとするんだけど…それでも、言葉にしたことが全てだって思わないでほしい。全部は、知り得ない」
「ミステリと違って、現実ではさ、過不足なく情報を提示することなんてできないじゃん。感情だって記憶だってなんだって、そのものの体積のほうが圧倒的に、もう比較にならないくらいでっかくて、言葉で表現できるのはそのほんの一部、氷山の一角のひとかけらだけ。七瀬視点だと、後出し情報多すぎる、聞いてねーよそんなの、って思ったことがたくさんあっただろうけどさ、それと同じで…わたしが言葉にしてない感情は、めちゃくちゃでかいよ、ってことを、こう、そよ風を感じるみたいに、受け取ってもらえたらいいな、って思って。叙述トリックってさ、何が叙述されてないかを考えるのが面白いじゃん」
「だから、さっき言ったばっかじゃん!言葉にしてることが全てじゃないって。叙述されてないことを、読み取ってよ」
「昔だったら絶対、こんなことは言わなかったと思う。けど、昔のわたしの言葉に、今のわたしを縛られたくない。認知的不協和は、発生した側から却下する。昔のわたしと今のわたしは連続してるけど、人は変わりながら前に進む存在だから。過去を振り返ることはあっても、大事なのは常にいまのわたし。他人の視界の中にいる小石像も、これまでのわたしの発言録も無視して ー 今ここにいるわたしが、最新最良なわけ」
「そういうわけで、前置きが長くなったんだけど ー 敢えて、ちゃんと言葉にして、言うね。ここ十日間くらいで蓮杖くんに起きた、恋愛感情絡みの嫌なこと、怖いこと、傷ついたこと…今から言う言葉で、全部上書きしてほしいんだけども」
小石が、くるりと蓮材に背を向けた。
「わたしね、蓮杖くんのことが好きみたい」
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