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常識をひっくり返して「そもそも」を問う思考法には、問題を定義し直し、より本質的な議論に導く力があります。学校教育や貧富の格差、心の病など、身近で大きな社会・環境危機に人類学で立ち向かう一冊。 【本書で扱う一例】ヘヤー・インディアンは「教わる」という概念を持たない⇒学校ってなぜ行くの?そもそも学ぶって何?/プナンは獲物もお金もみんなでシェアして貧富の差がない⇒格差や権力はそもそもなぜ生まれるの?
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Posted by ブクログ
シンプルながら唆られる装丁。 同筆者の『はじめての人類学』では歴史的な流れを主要な人類学者を押さえながら紹介していったのに対して 「ひっくり返す」という概念を我々の固定化された思考に比して提示しながら、人類学と社会との関係において不可分と思えるような形で、この学問の意義と存在感が示されている。 外...続きを読む界から覗くそういったダイナミズムは、研究者自身にも見いだせる。
学ぶとは何なのか、貧富の格差や権力の集中はどうして起こるのか、心の病はどうして起きるのか、人の死にどう向き合うべきなのか、人と自然はどう関わるべきなのか.何とも捉えどころのない質問に、ある程度的確な答えを提示する内容の本だ.現代社会でよく見られる問題ばかりだが、著者は狩猟民族のプナンやその他の原始民...続きを読む族へのフィールドワークから答えを導き出そうと思索している.学びという概念がない、ありがとうという言葉がない、権力者が存在しない、死を忘却して関知しない、人間と自然を別のものと捉えない.これらの状況が存在することは本書を読むまで気がつかなかったが、人類の祖先に近い生活を未だに営んでいる狩猟民族にその原点があることは、考えさせられることだと感じた.
人類学に学生時代ふんわりとしか触れてこなかった身からすると、とても読みやすく、面白かった!ちくまプリマー新書、やはり良い。 単純に「同じ地球上でこんなにも異なる文化が育まれているんだ」という驚きと、「いま自分が抱えているモヤモヤはこの社会に特有の文化的葛藤なのか」という気づきとそこから抜け出すきっか...続きを読むけを授けてくれる、そんな側面を持つ学問が人類学なんだなあと勉強になった。 当たり前を疑う、前提を見つめ直す、という行為は、当たり前や前提が異なる「なにか」をヒントにすると少し難易度が下がるというか、やりやすくなる。そのためにも、未知のものを知る、触れてみる、できるなら体験する、ということは重要なんだなー。きっと。 •サカナやトリにとっては、「自然」は抗うべき対象ではなく、一体化するものです。他方で、船や飛行機にとって「自然」環境は、克服すべき問題なのです。 •知識は私たちの心を安定させ、不安を振り払ってくれる。知恵はぐらつかせ、不安にする。知識は武装し、統制する。知恵は武装解除し、降参する。 •学ぶとは「知識」を身に付けるだけでなく、「知恵」を重んじることであり、「知識」に「知恵」を調和させることです。 大切にしていきたい言葉も沢山あった!
日本で暮らす中で「当たり前」だと考えられていることが、別の国・地域ではまったく違っている例が示されており、読みながら自分の中の「そもそも」を問い直していける、おもしろい内容でした。
【学校について】 人から教わるという発想がなく、人がやっているのを見て学ぶ社会がある。 彼らは学校を必要と感じていなくて、授業に参加してもずっと座っているだけだと感じるし、宿題を忘れたら怒られ、いじめに遭うこともあり、次第に学校に行かなくなるが、困らない。 この話は大人になった今、すごく納得でき...続きを読むる。 どれだけ英語の文法を勉強しても、ネイティブスピーカーと話すことに不慣れで抵抗があると使い物にならないし、逆に文法はめちゃくちゃでも話すことに慣れていて、意思疎通ができている人が周りにいて、「学校の勉強って何だったんだろう…」と思うことが多い。 社会に出て求められるのは、知識ではなく考え実践する力なのに、(少なくとも私が経験した日本の)学校教育は、勉強の進め方までも事細かに指示されて、「先生に従う=いい子」という感じ。 大勢の子どもが一度に学ぶにはある程度しくみを画一化することが必要だけど、それが主体性を奪っているのかなと思う。 座学には限度があって、体験、実践することが大きな学びに繋がると思ってはいるものの、学校に行かないことは大ごとな環境に生きているから、実際にそう感じて「学校に行かない」を実践できる人たちを少し羨ましく思った。 【心の病】 全体的に、フィールドワーク先の人たちは「個」を意識していない。(それに加えて常に集団で生活していることで悩みを抱えることもなさそう) 逆に、今の世の中では良くも悪くも「個」を大切にしていて、大家族も少なく1人の時間が多い人が増えていたり、多様性が認められるようになってきたことで「自分らしさ」も求められるようになり、それがストレスに繋がっているのではと感じた。 【自然と人間】 自然と人間は切り離されていて、人が自然を支配するような感覚は、紀元前のギリシア哲学にまで遡る。 動物実験をしたり食べたりすることに対して「かわいそう」と感じる感覚を、人間に近い動物から広げていこうという考え(哺乳類→鳥→虫みたいに)はなるほどと思った。 普段から、人間は他の動物のことを考えずに利己的だと思ったり、地球環境の保護を積極的に行う動きがあるものの、そもそも自然界に人間がいなければ生態系は保たれていたのでは?1番要らない生き物って人間だよな…と思いながら生きているので、このテーマに関する世の中に存在する意見を知ることができてよかった。 〈全体を通して〉 「そもそも」について考えることはできても、世の中のしくみや価値観が出来上がっている中で、それを実践することはとても難しい。 ただ、世の中を変えることは難しくても、ふとした時にこの本で知った価値観を思い出して、今の自分の置かれた状況を客観視して、少しでも楽に生きられたらと思う。
ちくまプリマー新書であるため、内容は整理整頓され、わかりやすい。 本書の目的は、世の中に蠢く様々な問題に対して、他民族の視点から見つめ、考え直すことだ。それはある意味マルチバース的な視点なのかもしれない。 我々に必要な、ありとあらゆるレンズを手に入れる方法を、人類学を通してキッカケをくれる一冊...続きを読むである。
具体的な民族誌の事例を基に、我々の「当たり前」をひっくり返し、物事の「そもそも」を問い直す人類学の思考法を通して、学校教育、貧富の格差や権力、心の病や死、自然と人間との関係といった身近でありながら重大なトピックを「ひっくり返して」考え、生きづらさの「処方箋」を探る。 民族により「当たり前」は異なって...続きを読むおり、フィールドワークにより紡ぎ出された民族誌の知見により、自分たちの社会の「当たり前」がひっくり返され、物事の根源に立ち戻った本質的な議論につなげることができるという人類学の魅力は、よく理解できた。 「教える」という概念がないヘヤー・インディアンやプナン、貧富の格差がないプナンやサン・ブッシュマン、カリスのサラババ(唇の過ち)、死者を忘却化するプナン、川に人格を認めるマオリなど、紹介されている民族誌の事例も、とても興味深かった。 ただ、それぞれの民族の前提条件等(紹介されている多くの民族は狩猟採集社会であるなど)を無視して、資本主義が発達した現代日本社会の参考とすることができるのかなど、全体を通して、いろいろ疑念や違和感も拭えず、ちょっとすっきりしない読後感だった。
●教育・学びには、教える人と教わる人という二つの立場があることを当たり前に受け止めているが、広い世界、そういう前提がない社会もある。それらの例を持ち出しながら、どこそこではこうであるという別の可能性にあたりながら、私たちが依拠している前提それ自体をひっくり返すという思考法を示すのが本書である。
人類学は「そもそも論」が得意. 遠く離れた場所では我々と同じ前提を共有することがない他者が存在し, 彼らは異なるアプローチでその問題に対処している. それらを知ることで, 「すでに分かっていると思っていること」の基礎を崩し, より上位の大きな問いにたどり着くことが可能となる.
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ひっくり返す人類学 ――生きづらさの「そもそも」を問う
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奥野克巳
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