ルポ 差別と貧困の外国人労働者

安田浩一

日本経済にとって、外国人労働者は都合の良い存在であり続けた。企業の繁栄を支え、あるいは不況企業の延命に力を貸してきた。しかし日本は、その外国人を社会の一員として明確に認識したことがあっただろうか。低賃金、長時間労働、劣悪な環境、パワハラ、セクハラ……中国人研修生・実習生と日系ブラジル人を中心に、彼ら・彼女らの心の痛みを描きながら、日本社会をも鋭く映す、渾身のルポルタージュ。新原稿を加え文庫化。

• カテゴリ: 小説・文芸
• ジャンル: ノンフィクション / ノンフィクション・ドキュメンタリー
• 出版社: 光文社
• 掲載誌・レーベル: 光文社未来ライブラリー
• 電子版発売日: 2023年03月14日
• コンテンツ形式: EPUB
• サイズ(目安): 7MB

[ブクログ · ★★★★☆]

中国人研修生に対する判を押したかのような協同組合、受け入れ企業の奴隷的扱い、また送り出す中国側の汚職、それ以前に日本経済を支えてきた日系ブラジル人の苦労の軌跡と悲惨な実情、そして形だけ変わって実態は何も変わっていない人身取引に等しい日本の外国人労働者に対する制度、こういった誰もが目を背ける『日本の暗部』を抉り出した傑作ルポ。これを読んで戦前の徴用工や慰安婦の問題を思い出すのは私だけだろうか。人は本質的に変わらないのかもしれない。こういったことは日本だけでなく米国含む他の国でも当然のように現在も行われているが、この書籍では日本だけに限定して問題提起しているために⭐︎4としたが、将来に残し幅広い人間に読んでもらうべき書籍であると思う。

[ブクログ · ★★★★☆]

安田浩一『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』光文社未来ライブラリー。

夢を抱いて日本に働きに来る中国人研修生、日系ブラジル人の過酷な実態を描いたルポルタージュ。

貧困に喘ぐ外国人労働者の実態は今や日本人労働者にも当てはまる。容易く解雇出来る非正規社員の増加、天井知らずの物価高、増税、社会保障費の削減と日本人労働者を取り巻く環境も悪化の一途を辿っている。

リーマンショック前後のルポルタージュなので、現在は少し状況が変わっているかも知れないが、日本の非正規労働者の状況を見ても、外国人労働者を巡る環境は少しも改善されていないと思う。

ブローカーにより莫大な借金を背負わされ、夢を求めて日本に来た中国人研修生や実習生を待ち構えていたのは、低賃金、長時間労働、劣悪な環境、パワハラ、セクハラという悲惨な状況だった。月に5万円から7万円という低賃金に残業代が1時間に僅か300円で休日も月にたった1日だけという信じられない劣悪な労働環境。研修生を送る側も受け入れる側の双方が中抜きで儲かる構造は東京オリンピックと何ら変わらない。労働組合に加入しようものなら、本国に送り返されるという奴隷か物のような扱いだ。

愛知県や静岡県で働いていた日系ブラジル人も突然の解雇により悲惨な生活を送っている。自動車産業が好調な時はブラジルの仲介者により多数、日本に送り込まれた日系ブラジル人もリーマンショックにより、生産数が減少すると呆気なく解雇の憂き目に遭う。また、日系ブラジル人よりも時間単価の安い中国人研修生やタイ人に仕事を奪われるという泣くに泣けない状況が続く。


少子高齢化、物価上昇に喘ぐ日本社会にとって安価な外国人労働者は魅力的なのだろう。『異次元の少子化対策』などとキャッチーな言葉ばかりが先行し、無策な日本政府では今後もこの状況は変わらないどころか、寧ろ悪化していくに違いない。

資源に乏しい日本はものづくりをベースに世界も驚く高度経済成長を遂げたのに、実体経済を蔑ろにして、投資やマネーゲームに走り、それが失敗するや、海外に労働力を求めたり、非正規労働者を増加させたりと経済活動の基本構造を完全に破壊してしまった。

今や成果主義などと綺麗ごとを言いながら、終身雇用制度を崩壊させ、非正規雇用を増やし、人件費を固定費から変動費に転換させようという企業の思惑は見え見えだ。

結果、非正規雇用に甘んじて低賃金に喘ぐ若者たちを増やし、家庭を持ち、子供を持つという普通の生活を実現する道は失われてしまった。

その裏で国策で優遇された自動車産業だけが異常に儲かり、その利権に権力者どもが群がるという歪んだ経済構造は最早修正する余地は無い。そのうち自動車産業も、いち早くEV化を国策として進めている中国により壊滅させられるに違いない。今更の如くあがき始めた半導体産業やIT産業も世界では勝目は無いと思う。

果して、日本社会はあと何年もつのか。

本体価格1,000円
★★★★