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パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!
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Posted by ブクログ
まず、国際結婚という自分の境遇に重ねることも多く、面白おかしく共感しながら読ませてもらった。 溢れる情報や十人十色の価値観の中で生きていく。この世界で繰り返される歴史、日本というユニークな国に生まれ、自分たちが生きている世界の狭さに息苦しくなることも多々。 なにものにも囚われずに、地球に生きる生き物...続きを読むの一員として、人生で何かを成し得なければならないということはないのではないかと、著者は語る。 動物はその置かれた世界で、排他せず共生しているということ、ヒトだけが生をややこしくしていることに立ち返って考えたいと思う。
歩きながら考える 著:ヤマザキ マリ 紙版 中公新書ラクレ 773 テルマエロマエの著者であるヤマザキ氏が、コロナ禍の中で感じた日本人としての、アイデンティティを語っています。人間は生まれた国の文化や考え方を強く受けますが、他者と異なるアイデンティティを認めながら共生することが可能といい、イタリア...続きを読む人である夫との生活はその形です。 気になったのは以下です ・人間というものは、「自分とはこういう人間である」と自らが、思い込んでいたり、周囲から思われていたりもしますが、そういったイメージに固執する必要はありませんし、むしろ、振り払ったほうがいい そうすれば、いくらでも臨機応変に置かれている状況に適応できるようになる ■歩き始めて見えたこと ・自分には、国境がない。アイデンティティもない。どこの国に行ってもアウェイの感覚で生きている無国境人間だ ・拒絶してきたもの、わかったつもりになっていたものでも、いざ蓋を開けてみたら、そこには、自分の偏見も見えてきたし、素直に面白いと感じることもたくさんありました ・日本では、人々が情報を懐疑的に受け止め判断してきた歴史が、他国より浅いと思います。 いや、浅いどころか、懐疑的になること自体を良しとせず、ほぼそうしていないようにすら私には見えていました ・結果がでないようなことが繰り返されれば、その情報を発信しているものへの人々の信頼が失われるのは当然のことです ・疑う力をもつということは、情報を疑えるだけの知性と、あらゆる可能性に考えを巡らせる想像力があってこそです ・おかしいと思うことを指摘してみれば、「ヤマザキさんも、それはわかっていたとおもうんですけど」、「こういうふうに理解してもらっていると、私は捉えていたんですが、誤解があったようですね」といった言い方での返事をもらうことが実に多かったのです。 悪気も落ち度もないふうでいて、結果的には、相手の不利を良しとしていた こうした対応は、イタリアやアラブ、ブラジルなどで経験した性質のものと違う、日本の社会風土がもたらす独特な狡猾さではないかというふうに感じました ・私はイタリアの美容院には絶対に行かないと決めている イタリアの美容師は客の意思よりも、髪型をつくる彼らのセンスこそが優先されるのです 「あんたがそうしたいと言っても、絶対似合わないと思う。悪いことは言わないからあたしの言う通りにしなさい」と圧力をかけられて、結果的にとんでもない頭になる そのような目に何度も遭いましたので、こちらの希望通りに何とか切ってももらおうなんてことはもう諦めました ■コロナ禍の移動、コロナ禍の家族 ・この大和の展示を通じて私がもう一つ感じたのは、「一生懸命勤勉に取り組めば、結果を生むかもしれない。たとえ結果を生めなかったとしても、尽くしてやったという価値が残ることに意義がある」という、ほかの文化圏ではおよそ通じないであろう日本ならではの美徳でした ・自分たちのもてる技術力、精神力のすべてを投じることが美しいという価値観の真意は、おそらく、何事にも神が宿るという「八百万の神」を信じる日本人の精神性からくるものではないでしょうか ・一緒にいるときでも、お互いの生き方にいちいち干渉したり、自分たちの価値観を押し付けたりしない ・人が好きじゃないのに、人がいないと生きていかない ・夫婦の間で互いに理解できないことや同意しかねることがあっても、価値観の無理な共有は求めずそれぞれの考え方や生き方に干渉させしなければ、良好な関係性は、保てます ・世界の多くの男性が妻に求めるのは、自分のダメなところを認め、どんなときも無条件に寄り添い、慰め、許してくれるかどうか、という点なのではないでしょうか どこかで羽目を外すことがあっても最後には許してくれる 妻に認められるこうした精神的忍耐は母性的な寛大さとほぼ同質だと思われる ・人間は繁殖だけを目的に生きている生き物ではありません 知性がある限り、精神面での健康維持は肉体の健康を保つのと同じくらい重要です。 だとすると理想的家族という既成概念に縛られない生き方や最初から家族をもたない幸福というものも、もっと当たり前に認められていくべきではないかと感じています ■歩きながら人間社会を考える ・夫以外の男性の前では髪を覆い隠すことで、凶悪な負の力とされている嫉妬という人間の驕りから発生するトラブルや混乱を回避しているという理論です ・イスラム圏のような宗教的戒律はありませんが、他人様の目、いわゆる「世間体」が我々の生き方を統制する戒律として機能していると思います 人間は誰しも自分ではない他人を通じて自己を肯定する側面はありますが、日本では特にその傾向が強い 世間体という戒律が成立するに至ったのも、島国という地理的な特質や歴史など、日本のあらゆる条件が合わさったなかで、群れの存続に必要なものだったからだと考えられます ・世間体という戒律、共通倫理、全体主義 今の社会で起きていることやその予兆について考えていると、いつも帰着するのが、「群れ」というものです ・エリアス・カネッティ「群衆と権力」:人間が群れる習性をもつこと、群衆が生まれれば権力が発生すること、群衆になることで人々は精神的な安寧を得られること、などに触れられています。 ・古代ローマの有名な格言に、「カルペ・デ・ディエム」というものがあります。 その日の花はその日のうちに摘み取れ つまり、人生は限定的なのだから今を楽しめ、という癒して的な意味を成しています ・「哲学」というと、日本では西洋史や美術史などと同じように学問として難しく構えがちですが、イタリアでは、一人の人間があらゆる経験と思考と試行錯誤を積んだ末に抽出される、その人なりの考え方や思想を指す言葉としても使われます ・宗教が生まれるその背景には、やはり生きることへの苦悩が必然としてあるのだと思います ■知性と笑いのインナートリップ ・監獄に収監された人が熱心な読書家になり、非常に博識に……、という話を聞きますが、私にも似たようなことが起きたのです ・世間一般で当たり前と思われていることを覆し、それを洒落にする そんな笑いが通用するのは、その社会にゆとりがある証拠です ・私は男性の格好良さは、繕っていないところにあると思っています ・安倍公房の一連の文学作品には、「壁の外に行こうともがく人」が基本概念にあります ・エドガール・モラン他「祖国地球-人類はどこへ向かうのか」異なる文化が共存したときには同化よりも並存や序列化が進むことや、排他性が生まれることなどにも言及していて、その思索の深さには読む側の視野も広がります ・ギリシアの哲人、アリストテレスの言葉 自己とは自分にとって最良の友人である 大事を成しうる者は、小事も成しうる 自然には何の無駄もない ■心を強くするために ・人は誰しも、逃げ道がないとなれば壁にぶつかり、行き詰まります ・人間は基本的に怠惰な生き物である ・社会においては美徳としか扱われない「信じる」という行為も、よく考えていれば怠惰を象徴するものだと私は捉えています まっすぐで濁りのない、美しい言葉のようでいて、その実は自分で考えることを放棄し、信じる対象に責任を委ねているにすぎません ・期待通りにならない場合の落胆への心構えを怠ってはいけません 夢は叶うもの、ではなくて、夢は叶わない場合もある もっと正直なことを言えば、叶わない場合のほうが多い 努力を重ねていても、望んだようにならないことが人生にはある 目次 はじめに 第1章 歩き始めて見えたこと 第2章 コロナ禍の移動、コロナ禍の家族 第3章 歩きながら人間社会を考える 第4章 知性と笑いのインナートリップ 第5章 心を強くするために おわりに ISBN:9784121507730 出版社:中央公論新社 判型:新書 ページ数:272ページ 定価:900円(本体) 発売日:2022年09月10日
前著「たちどまって考える」同様に、コロナ禍に おいて書かれたエッセイです。 しかし今回はコロナ禍であるため日本に留まり、 執筆されたので、コロナから抜け出しつつある 日本人に対して「いつまでも下を向いていないで 次のステージへ行こうよ」とエールを送る内容に なっています。 普段はイタリアと日本を...続きを読む行き来しているので、グ ローバルな視点を通して、「だから日本人は・・」 みたいな上から目線の語り口調ではなく、そして 「世界はこうだ」のような型にはめるような論調 でもありません。 むしろ宗教や哲学に根ざしたニッポン人への激励 に終始しています。 そういう内容はとても新鮮です。 次の週末には「とにかく外へ出て、どこかへ行っ てみるか」と背中を押される一冊です。
昆虫の視点から人間世界を描くところがよかった。 昆虫はただ生きるだけに精一杯なのに対して、人間は住みやすいように楽をしようとしている。そして、ひとたび混乱が発生すると、パニックになってしまう。 昆虫のように生きよ、とは言わないが、彼らから学ぶ点もあるという。にしても、昆虫好きの女性がいるとは珍し...続きを読むいのでは。
『たちどまって考える』があまり、でしたが、せっかくならこちらも、と思って読んだところ、ずっとよかった。 「人間というものは、『自分とはこういう人間である』と自らが思い込んでいたり、周囲から思われていたりもしますが、そういったイメージに固執する必要はありませんし、むしろ振り払ったほうがいい。そうすれ...続きを読むば、いくらでも臨機応変に置かれている状況に適応できるようになる。」 「人間の不完全さを認識できさえすれば、欠陥や失敗すらも余裕をもって見られるようになり、逆に腹も立たなくなってきます。人間は本来ならこうでなければいけない、ああでなければいけないと、理想を盛り込み過ぎるのはストレスを溜め込む要因になると思います。」 前著では、イタリアの家族とかなり密に過ごされているような印象を受けましたが、実は、義両親の家に毎週会いに行くのはわずらわしかった、ともあり、コロナで気づけたと思えば、悪いことばかりでもなかったと思えます(まだ完全に過去形にはできませんが)。 イタリア人のご主人が、「精神を宗教的な倫理で拘束されていない日本人を理解できないところがある。」など、日本人の根底にある考えにも気付かされます。 「シングル3つ」の距離感もいいなあと思いながら、同じ家の中でヤマザキさんの家族より多くの時間を一緒に過ごしているはずの自分の家族の方が、気持ちの距離は離れているような気がしたり… また、何度か読み返したいと思います。
「予定調和」という単語が印象に残った。 日本に住んでいる人たちは、甘やかされているように思えました。甘やかされて贅沢してるというわけではなく。。 私が想像したのは、日本人は言ったら(クレーム)言うこと聞いてもらえると思ってそう、という。 ピーチクパーチク言うだけで、自ら考えて自分のことは自分で責任を...続きを読む取ると思って決断できない。 自己責任論が蔓延ってるけれど、自分は責任取ろうとしない。他人のミスを過剰に挙げつらい成敗した気になってる。。 言えば改善してもらえる、管理してもらえる、コントロールしてもらえる。 IT化が進んだことで勘違いして、万能感を抱いてるのかもしれない。 人々の窮屈な感じは国土の狭さが関係してるのか?とぼんやり思った。
ヤマザキマリさんがコロナパンデミックで見直したというドリフ。ドリフの際どい笑いが、土曜の8時に放映されていた時代があった。そういえば、うちも見せてくれなかったなあ。 「表現に込められる思想や視点に制限をかけ、人間の視野を狭めたほうが、人間という群れを統括しやすくなる」 人間のダメさをさらけだしてい...続きを読むた落語の世界を一例にして、人間を理想化し、美化し過ぎている日本の社会を批判している。マスメディアが流している情報に窮屈さを感じていたから、我が意を得たりだった。権力者をおちょくる笑いが放送されなくなっているのは由々しき事態かもしれない。 エドガール・モランさんの言葉も示唆がある。 「人間は地球を一変させた。植物におおわれた表層を支配下に置き、動物達の主人となった。しかし、人間は世界の主人ではなく、地球の主人でさえない」 ヤマザキマリさんの常識よりも良識をという考えにも共感を覚えた。自分なりの審美眼を鍛え、自分の頭で考える実践の必要性だ。 昨日読んだ森有正さんの「経験」にもつながっているし、フランス、イタリアに共通する哲学の土台を見い出すことができる。 そうそう、人間には回復力が備わっているから、傷ついたって、「こんなものだろう」と諦めて何度でも立ち直れる。良識を磨き、回復力を鍛えること。そうすれば「死ぬまで生きられる」 今回もヤマザキマリさんの熱量と達観が行間から溢れ出ていた!
・家族の関係は人それぞれで、自立することが大事 ・信じることはある意味怠惰(責任を任せてしまうと言う意味で) ・オリンピックの意味の変異 といった内容が記憶に残った。 信じることはある意味怠惰というのはグサっと刺さってしまった。 確かに簡単に信じることにしがちだったが、そんな側面もあるなと。 どんな...続きを読む可能性もあり得るんだから、思考を放棄しちゃいけないし、予定調和だけじゃつまらない!ぐらいの価値観で生きたい。
共感できる部分がたくさんあって、興味深く読むことができた。 パリオリンピックの最中に読んでいたので、オリンピックの精神がどのようにして変遷していったのか、という考察は面白かった。 「この地球上でどんな現象が起ころうと起こるまいと、私たち人間全員が共有しているのは、誰もがいずれ死ぬという事実です。生ま...続きを読むれたら死に向かっているという当たり前の自分達の命の実態について、私たちはもっと正面から対峙していくべきかもしれません。」(p238)は、我が意得たりと大きく頷いた。
パンデミックに奪われた、これまでの自由。でも、たちどまったままではいられない。先行き不透明な世界で、私たちはどう生きていけば良いのか? 「旅する漫画家」による、自分の足で歩き続けるための実践的指南書。 いろいろ考えさせられた。
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