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「どうりで捕まらないわけだ」(道尾秀介)
自転車全国一周に扮した富田林署逃走犯、尾道水道を泳いで渡った松山刑務所逃走犯、『ゴールデンカムイ』のモデルとなった昭和の脱獄王……彼らはなぜ逃げたのか。なぜ逃げられたのか。
異色のベストセラー『つけびの村』著者は、彼らの手記や現場取材をもとに、意外な事実に辿り着く。たとえば、松山刑務所からの逃走犯について、地域の人たちは今でもこう話すのだ。
〈不思議なことに、話を聞かせてもらった住民は皆、野宮信一(仮名)のことを「野宮くん」「信一くん」と呼び、親しみを隠さないのである。
「野宮くんのこと聞きに来たの? 野宮くん、って島の人は皆こう言うね。あの人は悪い人じゃないよ。元気にしとるんかしら」
「信一くん、そんなん隠れとってもしゃあないから、出てきたらご飯でも食べさせてあげるのに、って皆で話してました。もう実は誰か、おばあちゃんとかがご飯食べさせてるんじゃないん、って」〉(本文より)
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Posted by ブクログ
新書ではありますが、中身はノンフィクション
です。取材対象は「脱走犯」。
記憶に新しいところでは松山刑務所から脱走し、
泳いで四国から本州へ渡り、逃走を続けたあの
事件です。
最後には広島カープの本拠地球場近くで捕まっ
た映像をニュースで観た人は多いと思います。
スリリングな脱走劇は、過去にもドラマや映画
の題材として扱われてきました。
しかし現実に発生している脱走は「警察官の隙
を見て」や「監視が持ち場にいない時を身はか
らって」とか、え?そんなにユルいの?と思っ
てします要因ばかりです。
そのユルさは日本の法制度に起因しています。
この本では海外と比較してなぜ日本の法制度が
ユルくなっているのか、なども分かりやすく解
説されています。
「どうせ捕まるのだから逃げなきゃいいのに」と
思っている方は、ぜひこの本を読むべきです。
日本では「逃げなきゃソン」とばかりの環境が
目の前にあるのです。驚きの一冊です。
Posted by ブクログ
著者の淡々とした文章が好き。冒頭の小説家の方との対話が面白かった。小説家から見たノンフィクションとは、、このルポを読んで、現実のあり得なさに(多分悔しくて?)泣いた、と買いてあって、面白いなあと思った。事実は小説より奇なり、、フィクションだったらありえないだろーって言われるような展開が現実だとあるのが面白い。
こうゆう犯罪もののルポって、ここでこんなもの食べてました、とか急に身近で現実感があるものが登場するのが面白いと思う。犯罪者がどんな心理でその行動を起こしたのか、ということに興味があってノンフィクションを読んでいるので、人間ぽい一面がみれると、その心理が少し分かったような気持ちになる。
Posted by ブクログ
前半は2018年当時けっこう話題になった今治の開放型刑務所を出て瀬戸内の島に潜み海を渡った例と、富田林署を出て自転車旅を装っていた例が紹介される。これがめっぽう面白い。どちらも飄々と巷を移動していく。つかまりそうでつかまらない強運もあるのか。潜伏先の島の人々や接点をもった人たちが両例の「脱走犯」たちのことを、ある種の親しみをもって語るのも印象的。そして、捕まるときはわりとあっけない。
彼らによれば逃げたのは刑務所での扱いが不満で理不尽なものだったからだという。それはこの両者の例の後に紹介されている昭和の脱獄王・白鳥由栄も同じ。こういう動機によるものか、いやそれが明かされる以前から妙に人々は彼らを慕わしく思い、一方で捜索に手こずる警察の傍若無人さにはあきれぎみ。そんなところが、脱走犯への親しさを増させもするのだろう。
後半は保釈制度や自白偏重主義や人質司法といった日本の司法制度のあり方に疑問を呈す。それは翻れば人々の意識の問題でもあるだろう。以下を引用しておきたい。
海外からのみならず、日本国内においても、自白偏重主義や人質司法に対する批判はある。しかしこれらが高い有罪率を支えていることも事実だ。不思議なことに日本では、被疑者が起訴されれば、本来はまだ未決……有罪か無罪か決まっていない立場であるにもかかわらず、その被告人に対して〝ほぼ有罪〟という印象を、多くの者が持つ。これは、高い有罪率を誇る日本の検察を、実際には信頼している証ともいえるであろう。「推定無罪の法則」という言葉は知られていても、生活には溶け込んでいないのだ。国際的なスタンダードを求めながら、日本特有の自白偏重主義や人質司法から成る高い有罪率によって、日々の生活に安心を得ているという矛盾が、ここに見える。あらゆる手続きが完璧でなければ非難の対象になる空気もあり、むしろ日本では100パーセントの有罪率が求められているようにすら思えることもある。(p.207)
またも15年ほども前、某矯正施設の所長さんが、刑務所は矯正するための施設なのに人々は隔離しておくことを求めるというようなことを言っていたのを思い出した。容疑者となっただけで人々はその人との間に一線を引き、見えないもののようにしたがる。警察や検察の横暴ともいえる事象が多発しているように思えるが、世のなかの反応が薄いことが、横暴を助長させてもいるに違いない。
愉快な逃亡譚を期待していたので前半は満足。後半はがらりと印象が変わって一冊の構成としてどうかと思わんでもないけど(冒頭には作家・道尾秀介との対談も収載してあるし)、司法やこの国の人々の意識に一石投じる重要な意見が述べられている。
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