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性愛と淫蕩のイメージで語られてきたイスラム世界の後宮・ハレム。奴隷として連れてこられた女官たちは、いかにして愛妾、夫人、母后へと昇りつめたのか。ハレムを支配する黒人宦官と、内廷を管理する白人宦官は、どのように権力を手にしたのか。600年にわたりオスマン帝国を支えたハイスペックな官僚組織の実態を描く。
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Posted by ブクログ
いわゆる、あの「ハーレム」です。 女性が男性を取り巻いているようなアルファオスの象徴というか、破廉恥な文脈でもありそうな、あの現象?について。その語源を歴史を紐解き真面目に解説したもの。 ハレムは、オスマン帝国のスルタン(君主)がトプカプ宮殿に構えたもの。アッカド語のハラムが語源。シュメール語には...続きを読む、女性たちの家と言うハレムを指す単語がある。一夫一婦制を規範とするキリスト教以降、ハレムのような慣習は徐々に失われていったが、イスラムは、妻の数は4名まで。君主でもこれを破ることはできなかったが、所有する女奴隷と性的関係を結ぶにあたっては、数の制限はなかったから、ハーレムに住む寵姫たちは、基本的に奴隷から選ばれたのだという。 酒池肉林的な淫らなイメージもあるが、現実的には、後世に子孫を残す仕組みとして機能しており、奴隷であっても寵姫に格上げされたり、その子供も重んじられた。また、実際には酒池肉林のような世界は一部のスルタンを除いて常態化していたわけではない。日本では大奥のような世界だが、似たようなものだと言える。 本書のもう一つの重要なキーワードは「宦官」だ。これもイメージ通り、男子が生殖器を去勢すること。睾丸を取り除く場合と、ペニスから根こそぎ取り除く場合があり、後者の方が手術の成功率は低く、命の危険性があるために、宦官となった奴隷は高額で取引されたらしい。手術は、非ムスリムにより、イスラム世界の外で執刀されなければならないというイスラム法があったが、その規定はほぼ無視されていた。この手術の描写は、本書を読んでいても痛々しい。 ハレムや宦官の存在は、原始的なヒエラルキーにおける原初的な欲求を機軸とした君主の強さを物語る。ただの性欲というよりも、血を繋ぐことでの支配欲だ。権力に対する統制が徐々に大衆の人権を高めたが、それ以前の世界は、現代の価値観では信じられぬような悍ましい慣習が横行していた。興味深く読めた一冊だった。
オスマン帝国の君主がトプカプ宮殿に構えた、ハレム。 それは帝国の国政と文化を担った場所であり、組織だった。 第一章 ハレム前史―古代よりオスマン帝国初期まで 第二章 ハレムという空間の生形―トプカプ宮殿の四00年 第三章 女官たち 第四章 王族たち 第五章 宦官たち 第六章 内廷の住人たち 第...続きを読む七章 ハレムと文化 第八章 変わりゆくハレム 終章 ハレムの歴史的意義 コラム1~11、注、図版出典一覧有り。 主にトプカプ宮殿を中心にハレムの存在意義と、 住まう人々について、分かり易く、かつ詳細に説明している。 身分は非ムスリムで非帝国臣民の奴隷たちが大部分。 それぞれの事情、ハレムでの職階と職務、生活、給与や人数等。 女官の結婚や刑罰について。夫人と愛妾の序列。 ハレムでの最高権力者の女后。 王子殺しから、年長者相続と鳥籠制度に変化した王子たちの境遇。 王女たちの婿探しは、宮廷政治にとって重要だったこと。 内廷での実力者、白人宦官。ハレムでの陰の支配者、黒人宦官。 幹部候補生として内廷に住まう小姓。 内廷とハレムでの小人や啞者の職務と存在意義。 女官の音楽と芸能、読書からの文芸、宗教寄付による建築。 そして、時代の変遷のなかでの、トプカプ宮殿の位置付けの 変化や改革、近代化、戦乱の影響はハレムにも及び、 何よりも奴隷交易廃止とオスマン帝国自体の滅亡が、 ハレムを終焉へと導く。 400年以上も続いたハレムですが、その内情はパンドラの箱の 如く。住まう者の多くが奴隷であり、非ムスリムで非帝国臣民で あったことは、帝国臣民すら知らぬ場所だったと思われますし、 西洋に伝わったイメージも偏見や憧れで誇張されてきたことが 分かります。王位継承者や幹部候補生の場というのも、新鮮。 史料の都合もあり、まだまだ研究は途上なので、 今後の研究が待たれるとのこと。それでもハレムの一端を 知ることが出来て、良かったです。 他国や江戸時代の大奥と比較してみるのも面白いかも。
"ハーレム"(ハレム)と聞くと女性を何人も侍らせている男性を想像してしまうが、それは昔の欧州の人々が"オスマン帝国"という巨大な国家に対しての蔑むこと、もしくは無知からくる想像であることが分かる一冊 本書において"ハレム"というのは後継者...続きを読むを育てるための巨大な組織機構であることがわかり、女性の扱いにおいても奴隷の身から考えると格別な待遇であることが伺える 従来の"ハレム"像とはかけ離れた内容であり、学術的な内容であるため、期待外れと思う人は中にもいると思われるが、学術書より読みやすく書かれている一冊であり、興味がある場合は手に取ってみるのも良いかもしれない
日本ではハーレムと呼ばれることの多いハレム。 エキゾチックでエロティックな空間、と言うイメージが強いが、本書を読むと、官僚機構であった、とイメージがガラリと変わる。 そもそも、国内の美しい女を侍らせ…ではなく、女性たちは奴隷身分であった。 しかも、14世紀のハレムでは、王子の母が奴隷身分の他宗教出...続きを読む身であっても君主の名代として振る舞っていたと言う。 女官組織は母后を頂点としている。 19世紀には西洋文化を身につけるレッスンも施された。 宦官組織も、白人、黒人で大きく分かれることもなかった。 読み進めていくうちにイメージがどんどん変わる。 世襲君主制や官僚組織としてのあり方も興味深い。 いくつかの王朝との共通点もあり、類似性から特異性を探ることもできよう。 しかしまだ研究途上(280頁)と言うこともあり、これからの研究にも期待したい。 新たなる視点を授けてくれる本書は、低く見られがちな文化に対する転換の一つであるのだ。
イスラム帝国からオスマン帝国にかけてのハレムについて、その成立や目的、立地や人的構成など多岐にわたって解説されている。また、これらの帝国の簡単な歴史紹介にもなっている。 本書によれば、ハレムとは、王位継承者のプールであり、王統が途切れず、かつ、親族どうしで王位継承の争いが起きないようにするという目的...続きを読むのための私的かつ公的な組織だということのようだ。キリスト教世界の王位承継や日本の皇統承継との比較についても少し述べられており、現代の問題とのつながりも見られた。
とてつもない強大な帝国を築いたオスマントルコ。 歴史の表舞台になかったトルコは今、ロシアウクライナ戦線で調停のテーブルに着く重要な責を担った存在として浮上してきた。 近代から現代への流れを知りたく読むが、気鋭の研究家のペンは面白く読ませる、、簡易なのが非常に良い。 「王位継承者の育成」に最もポイ...続きを読むントを置くハレム、その存在に中人を担うのはスルタンの母后.皇后でないところが意義深い。 広大な領土に存する多民族の中から奴隷として供給されてくる。多くの源はチェルケス人~コーカサス地方。 興味深かったのは奴隷は原則、非ムスリム。しかし,チェルキス人は異なっていたが受給の関係でそれに目をつぶっていた様だ。 種々の文化の発信源ともなっていたようで専ら詩、散文に高い芸術性を認め、文学はあまり発達しなかった模様。奴隷からハーレムへ入った人らはキリスト教徒なら改名しペルシア風へ。それは女官、黒人宦官でも同じことであったようだ。 終章で近代化への道を辿る中、ヴェネチアとの関係が大きかった事、欧州の圧力が多々に有ったこと、WW1の中、スルタンは追放されトルコ共和国が建った流れがよく分かった。 世界から見ると中国・朝鮮・我が国(江戸幕府)は同じものだろう。 王位継承者の育成、文化の偏愛などまさに。 世界から見ると 我が国の大奥が消え、朝廷へ奉還後、天皇制が残っている事は奇異に思われるかもしれない。 読み終えてみると「欧州がプレスしてきた近世から現代」の偏見の大きさに気付かされる。
トプカプに行く前に読んでおくべき本。 ハレムの組織については分かった。しかし、そこから次の疑問が湧いてくる。 オスマントルコの皇帝は、かなり長くずっと奴隷出身の母の子で、母の出自はヨーロッパ、ウクライナなどが多かったとすると、皇帝って、金髪が多かったりする?そういう絵は見たことないけど、ターバンだか...続きを読むら分からないか。 母が常に奴隷であるのは、トルコ人有力者から嫁を取って、有力者間の勢力争いが起きるより良かったのかなあ?イスラム社会の相続は、ヨーロッパや東アジアとは違うのか? マムルーク朝なんて、子供に相続させないしなー。 分からないことだらけ。
様々な角度からハレムが考察されていてとても興味深かったです。 以下簡単な内容メモ。 ・ハレムは構造が果たす役割が大きい ・王子はスルタンになるまで鳥籠の間で暮らす→ほぼ幽閉(至高の存在に至近するものでありながら、制限されている) ・王子は即位の機会がなければハレムにずっと軟禁される ・兄弟殺しが通...続きを読む例だった ・母后の権限がとても強い ・女官はピラミッド型の統率された社会 ・白人宦官と黒人宦官がいた ・去勢の過程で化膿もろもろで四分の一が死亡するため、宦官は他の奴隷よりも高値で取引された ・各役職がしっかりと統制されていて興味深い ・「我が獅子よ(アルスラヌム)」→某戦記を思い出しました。
私にはどっちかというとガジェットネタかも。いろいろどうしてそういう考えになるんだか、はあるが海に沈められる話はぞっとする。
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ハレム―女官と宦官たちの世界―(新潮選書)
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小笠原弘幸
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