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1925年に成立した治安維持法。歴史の闇の中であっても輝きを放つ、「敗れざる者たち」の矜恃とは――?
『蟹工船』の取材と執筆に熱中するプロレタリア文学の旗手・小林多喜二。
反社会的、非国民的思想犯として特高に監視される反戦川柳作家・鶴彬(つる・あきら)。
同業他社の知人たちに不可思議な失踪が続き、怯える編集者・和田喜太郎。
不遇にありながら、天才的な論考を発表し続ける、稀代の哲学者・三木清。
己の信念を貫く男たちを、クロサキと名乗る内務省の男が追い詰めてゆく。
彼らはなぜ罪なく裁かれたのか?
累計130万部突破「ジョーカー・ゲーム」シリーズの著者が令和の世に問う、もう一つの傑作スパイ・ミステリ!
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Posted by ブクログ
共産党員を追い詰めていく特高を描きながら、逆説的に文学や思想というものの、普遍性を感じさせる内容で、すごく良かった。
以下、ネタバレ含みます、注意。
「雲雀」では、小林多喜二が『蟹工船』を生み出す前夜が舞台となる。
蟹工船の工員二人にインタビューを行うのだが、その二人は特高の息がかかったスパイであった。
彼らは小林多喜二との会話の中で、自分たちが生きていた蟹工船という世界の異常さに気付く。
面白いのは、エンディングだろう。
『蟹工船』を読んだ工員の一人は、自分が語った体験を、語り以上の「ストーリー」に仕立て上げている小林多喜二と、小説そのものに、のめり込む。
そして、「ストーリー」がまた、人の行動に影響していくという終わりが良かった。
「赤と黒」では、時間軸が終戦直前にまで進められている。
この話で中心となるのは、三木清だ。
正直なところ、これまで断片的な情報しか知らなかったのだけど、彼の持つ才能と、人間味に惹かれた。
特高クロサキの憧れの人物であり、世俗の人間とは段の違う場所で、当時の世界を俯瞰出来ていたであろう三木清が、なぜ酷い最期を迎えることになったのか。
特高内の状況変化と、三木清という人物を、クロサキがずっと追ってきた対象として、それぞれ丁寧に描くことで、うまく繋がったラストとように思う。
その意味では、短編の、どこをテーマにすると良いかというボリュームの持たせ方が上手いといえるかもしれない。
とにかく最初と最後の二話に、心を持っていかれた、良い一冊だった。
Posted by ブクログ
柳広司は、岩波書店の「機関誌」である『岩波』のレギュラーとしてエッセイを寄せている。それらのエッセイで激越な表現で示される彼のスタンスや内容には全く共感できないのだが、彼の小説は、敬意を払って読んでいる。ヒューマニズムと社会の束縛の桎梏に苦しむ心理を描くのがとても印象的。また、とてもクリアで平明な文体でありながら、登場人物の思考や感情がビビッドに立ち上がってくる。感銘を受ける現代日本の作家の一人だ。
本作では、小林多喜二や三木清が、語り手の視野の中に登場する。
現代の学校教育で、昭和前期の現代史をきちんと教わることは、ほぼ無い。よって、平均的な日本人は、自覚的に学ぼうとしない限り、治安維持法や憲兵の意味、そしてその時代がどのようなものだったか知る機会はほとんどない。ひょっとしたら、今の国会議員クラスでも、良く知りはしない輩が多いのではないか、と僕は疑っている。
コクミンの多くが、以下のように考えるようになる時代が、すぐそこまできているのではないだろうか。つまり、「思想の強制あるいは少なくともガイドラインの提示のようなものが望ましい」と願うようになる時代が。「理想の追求」と「相互監視と迫害の惨事」は紙一重だ。過去に学び、プラトンやカント流の理想主義が暴走するとき、強烈な副作用が発生することについても、多くの人が理解できるようにならなければならないだろう。
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