裏表紙の説明文には「究極の愛」とあった。異種婚姻譚という物語のパターン自体が究極の愛と結びつきやすいと思うけど、その中でも確かに「究極の愛」と呼ぶのにふさわしい作品だった。
あまりに純粋で偉大すぎる魂とあまりに卑小な魂とが惹かれあってしまったことがそもそもの悲劇の始まりなんだろう。
でも卑小
...続きを読むな魂といっても、それは人として普通にもつ魂。人としてまともであるがゆえに、水の精オンディーヌの魂には及ぶべくもなく卑小なんだと思う。だから、オンディーヌが愛したハンスは、日と一般にまで拡大できて、人それ自体がいかに卑小なものなのかを思い知らされる。
そして、一方の純粋で偉大な魂は、決して神のような絶対的な存在ではなく、どこまでも澄み切った一人の女性として描かれる。悩み怒り悲しむとオンディーヌの言動自体は普通の人とそう変わらないはずなのに、どこまでも純粋さも偉大さも失わないで、かえってくっきりと際立っているように思う。
この越えられないくらいに激しい落差が必然的に悲劇を生むし、だからこそ究極の愛なんだろうなあ、とぼんやり思う。
かなり昔にエッセイか何かでラストシーンが紹介されていて、それ以来読みたい本の一つにずっとなっていた。でも一冊4500円のジロドゥ戯曲全集しかなくてなかなか手が出せないでいた。光文社古典新訳文庫のおかげで、こういう作品がとても手にしやすくなったと思う。「カラマーゾフの兄弟」のように他社でも出ている作品ではなくて、他では手に入らない隠れた名作をどんどん出していってほしい。