過労自殺 第二版 (岩波新書) 新書 – 2014/7/19
人員と時間に余裕のある職場つくりが必要である
2015年9月19日記述
川人博さんによる著作。
我が国における過労自殺について、これほどよくまとまった本は無いと思う。
勤務問題が原因・動機と思われる自殺は年間約2500件もあるのだ。
第一章の事例から・・大変生々しい悪質な労働実態が明らかにされる。
可能ならそれぞれ亡くなった方の事を更に深く掘り下げて知りたいくらいだ。
また本章では勤務先を明らかにしている。
類似書でも肝心な企業名をぼかすものが多い中、本書の勇気を高く評価したい。
新興プランテック株式会社
株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(富士通SSL)
株式会社関東リョーショク
オリックス株式会社厚木支店
株式会社JTB法人東京
製薬会社日研化学株式会社名古屋支店静岡営業所
株式会社小田急レストランシステム
土浦協同病院
これかの中で著者の述べていたSEはスレイブエンジニアに聞こえてしまうという指摘には頷く他ない。
個人的に2011年2月22日のニュージーランドクライストチャーチの大地震で関連する過労自殺が強く印象に残っている。
しかもこの被災者は3月11日に自殺。
災害後対応に追われ過労死、過労自殺に追い込まれている人が現実にいるのに全く社会はそれを無視しているとしか言えない。
JTB中部の社員が岐阜県の高校の遠足用のバス手配を忘れ遠足を中止しなければ自殺するという匿名の手紙を高校宛に出したという2014年4月29日のニュースに関してもその背後に多すぎる業務量が関係しないだろうかという川人博氏の指摘に思わずハッとさせられた。
当時自分もとんでもないことだと
単純に思っていた事を反省したい。
第2章は特徴・原因・背景・歴史と題して多くのグラフやデータを示しながら過労自殺の問題を解説。
大変納得感がある。
第3章は労災補償をめぐってと題して実際に過労死、過労自殺が起こってしまった場合にどのように労災認定を受け、補償を求めていけば良いのかが示されている。
Q&A方式になっていてわかりやすい。
労基署、裁判所へ提出するものは何かこちら側で何に注意して証拠を集めて提出したら良いか細かい注意点も書いてあって良い。
手続きの流れが図式化されているのも大変参考になる。
第4章では過労自殺をなくすためにと題してその予防策を示している。
同意出来る事ばかりだった。
特に中高、大学で労働実態、ワークルールを学ぶ機会を増やすというのは極めて重要であると感じた。
またうつ病の知識をもっと持つべきだろう。
特に過労自殺においては殆どの人がうつ病状態に陥っている。
まともな判断力が失われている場合が多い。
失敗が許容される職場、誰かがフォローできる体制つくり。
あえて義理をかくこと、人員と時間に余裕のある職場つくり。
残念ながら日本にある殆どの職場はその逆であろう。
過労死防止法制定を機会として更に労働者、生活者、有権者の為になる法整備を進めていく必要がある。