バルトークの、民謡収集がどのようなものだったのかを明らかにした本。
作曲よりも、民謡の分類に相当の力を注いでいたとのことで、検索性を求めつつ、ヴァリアントが近くに配置されるような配列を構想していたという。
つまり、辞書のように単一の原理で配列することと、複雑な要素を持っている民謡同士の近親関係を表示
...続きを読むするという、相反することをやろうとしていた、ということらしい。
何曲かは聞いたことがあるけれど、どんな顔をした人かさえわからない私には、初めて知ることだらけ。
ハンガリーの作曲家で、ハンガリーの民謡を収集したと思われがちだけれど、実はルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、アルジェリアなど、いろいろなところでやっている。
それも、ブルガリアがかなり多いそうだ。
二十世紀初頭の不安定な東欧情勢の中で、愛国心の発露として民族音楽に向かったのかというと、単純にそうとも言えないようだ。
若いころの一時期こそ、愛国主義的な主張もみられたが、コダーイらから音楽学的な方法を学んでいくにつれ、学術的な興味に移っていったとか。
リストが広めた「ハンガリー音楽=ジプシー音楽」というイメージの問題も興味深い。
リストにとって、ハンガリーの農民の音楽は魅力的ではなく、ジプシー音楽をハンガリー音楽として取り入れた事情があるらしい。
バルトークはこれを批判し、彼らが収集した農民音楽を「オリジナル」と主張する。
しかし、筆者伊東さんは、それもまた単純すぎる批判ではないか、と考える。
また、仮にジプシーが農民音楽を利用していたことが確認できたとしても、ジプシーが伝えたものはオリジナルを歪曲したものかどうか、とも問いかける。
ロマ音楽を取り入れ、イミテーションの美を追求したラヴェルとの違いもわかりやすい。
ハンガリーの当時の状況なども解説しながらと、知らないことが多い私のような読者には、負荷が多い書物だけれど、単純な構図に納めず論じているので、信頼できる。