こうやまのりおさんというノンフィクション作家の方が日本人なら誰もが知る、盲目の(。。。という言葉も既に要らない)ピアニスト辻井伸行さんについて書かれた作品。
「僕の演奏を聴いてほしい。お客さんに喜んでもらいたい。」
この本の中で一番印象的だったのは、この言葉でした。
私も十数年ピアノを習い、コン
...続きを読むクールで賞を頂いたこともあります。でも、あの頃は母に叱られながらの練習の日々だったので、「なにくそ!」と負けん気だけで弾いていたなぁ^_^;
でも、技術が身についてくると、自分なりに曲を解釈し、もっとこんな風に弾きたいと思えるようになって、それからはピアノがずっと楽しくなりました。
私はピアノを「弾く」楽しみを見い出すまでに何年もかかったので、伸行さんが赤ん坊の頃から音に親しみ、「聴いてもらう」喜びを感じていたのには衝撃でした。でも、だからこそあんなに純粋で喜びに満ちた音が奏でられるんだろうな、とも納得。人の心に沁み入る演奏の秘密が分かりました。
また、この本には、母 いつ子さん、父 隆さん、川上先生などの恩師や、三枝さんや佐渡さんなどの世界の巨匠、学生時代のお友達など周りの方へのインタビューもたくさん盛り込まれていて、この方々の並々ならぬ思いに支えられて「レジリエンスの塊」のような今の辻井さんが創られていったんだなと感じました。
(また、この丁寧な取材ぶりから、作家のこうやまさんが、いかに伸行さんをリスペクトしているか、そして、この本を相当な熱意を持って書かれたか、が伝わってきます)
最後に、子育てオンタイムの母親として、母いつ子さんが身をもって伸行さんに伝えた、
・自分の音楽を豊かにするために、もっと美しいものに触れ、心の眼を養う。
・ちょっとハードルが高くてもやってみる。どんなチャンスも逃さない。
・皆が諦めてからが本番。自分の力を信じ切る。
この3つのマインドは本当に素晴らしいと思う。
特に、いつ子さんはいつも伸行さんの演奏を誉め、「コンクール優勝おめでとう!」と楽しいロールプレイングで、自然と伸行さんが演奏することを「楽しい、嬉しい」と思う気持ちを育まれていたそうです。
この「いつも」っていうのが、本当にすごい!
育児って親子とも気分の波があるので、日常の中でコンスタントにやりきるって、実はかなり難易度高いタスクだと思う。。。
でも、この本を読んで、出来るだけ、うちの子達の演奏にも最大限の祝辞を送ってみよう、と思いました。それが「誰かを喜ばせる喜び」という、とてつもないパワーを生み出す"初めの一歩"になるのであれば。
少し前の作品でしたが、親としてのあり方を考えさせられた、学びの多い一冊でした。