著者の横山さんは東京大学大学院教授で、2003年頃から次世代送電網・スマートグリッドの研究を重ねてきた人物です。
本書は題名からも分かるように、その横山さんが「スマートグリッド」を一般読者向けに解説している新書です。
スマートグリッドと聞いて、何となく身構えてしまう方も居られるかも知れませんが、
...続きを読む本書には数式などは一切出てきませんし、また、所々に図が挟まれているので読みやすい本ではないでしょうか。
勿論、この分野における基本知識があれば理解が早いとは思いますが、基本的に
・電気は需要と供給を常に合わせないといけない。それに失敗すると、供給過剰、もしくは供給不足のどちらでも停電が起こる。
・発電量の予想が付きにくいソーラーパネルや風力発電など、再生エネルギーによる発電が大規模に取り入れられると、電力の需給の一致が難しくなる。この問題を解決するための切り札として「スマートグリッド」に期待が寄せられている。
の2点を抑えていると理解しやすいのではないかと思います。
さて、内容の方を簡単に紹介すると、
「スマートグリッド」と言う言葉一つとっても、世界共通のきちんとした定義が存在していない状態で、世界各国がそれぞれの事情に合わせた設備投資、開発に取り組んでいる状況や、
(上記しましたが)再生エネルギーによる発電を大規模に導入するのであれば、電力の需給を一致させ停電を防ぐために、スマートグリッドが必要となる事。
そして、開発が進んでいるスマートメーター、送電網の監視・制御技術、スマートストレージ、デマンドレスポンス、スマートアセットマネジメントなど、スマートグリッドの要素技術の紹介も載っていました。
紹介された技術の中で、特に、電力が過剰に供給された時に電気料金を安く、逆に不足している時には高くする、あるいは、例えば電力不足時には一般家庭の冷蔵庫のスイッチを30秒間だけ切るなどの電力需要を調整をしたりするデマンドレスポンスが、一般消費者には、スマートグリッドと従来送電網との違いが一番実感できる所ではないでしょうか。
他、欧米各国、中国、韓国、日本におけるスマートグリッド開発状況の解説が載っており、それぞれの国が自国の事情に合わせて開発を進めていっている事がよく理解できる内容となっていました。
スマートグリッドが導入された社会では、個々の世帯における(個々の家電の使用状況も含めた)電力の消費実態が詳細に把握出来ることになり、それによりグーグルが個人の生活スタイルに合わせた新たな広告業を展開するのではないかとの噂があるそうです。
本書にも書かれていましたが、スマートグリッドの普及には、技術開発とその導入だけでなく、電力使用状況と言う個人情報の取扱い方の社会的なコンセンサスが必要との事。
従来、電気使用において気をつけなければいけない点は、(現在、原発事故の影響で節電が呼びかけられていますが)大体の場合、電気料金が高くなることを防ぐと言う事だけでした。
しかし、個々の電気機器の使用状況までも含めた電気の使用状況。
将来、スマートグリッドの便利さと引き換えに、この様な個人情報が他人に知られると言う点についても考える必要性が出てくるのでしょうね・・・
一般人も色々と考えることが多くなりそうです。