良書。管理会計の入門書としてオススメしたい。以下、備忘録。
❶管理会計で数字を見ると経営の本質が浮かび上がる
①管理会計は意思決定や業績管理をするための会計手法である。
②財務会計は過去の業績を示す決算書をいかに正確に作成するかに重点が置かれている。一方、管理会計は経営情報を集め、経営者やマネ
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③粗利益率が高い商売は、人件費、減価償却費、その他諸々の固定費をかけて付加価値を生み出しているという感覚が必要。
④『売上、費用、利益』という言葉を並び替えるとしたら、財務会計が頭にあれば『売上、費用、利益』の順番だろう。ただし、管理会計が頭にあれば『費用、売上、利益』の順番になるはずである。
⑤投資の採算を考えるにあたってはCFが何より大事。会計上の利益は出ていてもCFが赤字だと最終的な現金の回収が進んでいないからである。
⑥管理会計を理解するには3つポイントがある。1つ目は損益分析と業績管理である。2つ目は原価管理である。3つ目は意思決定である。
❷損益分岐点分析で管理会計入門
①損益分岐点を探るにはまず固定費がいくらかを求める。その後、プロダクトの限界利益率を求める。固定費を限界利益率で割って損益分岐点売上を出す。
②目標利益は(総固定費+目標利益)を限界利益率で割ってやれば良い。プロダクト1つあたりの値段で割ると1つあたりの限界利益が出る。
③利益を稼ぐには1)固定費をなるべくかけない
2)限界利益率を上げる(≒変動費を落とす、販売価格を上げる)である。
④抱き合わせ販売で限界利益率を上げる戦略は考えるべきである。1番身近な例はファストフード店だろう。ハンバーガー単品の単価は安くした上で限界利益率の高いドリンクとポテトをセットにして全体の限界利益率を底上げしている。
⑤変動費の3つの特徴は次のとおり。1つ目は売上に比例すること。2つ目は生産活動、販売活動を行うにあたって必ず必要になるもの直接費である。例えば材料、商品、外注費などである。3つ目は、外部から購入した価値ということである。
⑥固定費の3つの特徴は次のとおり。1つ目は売上に比例せず常に一定額発生するもの。2つ目は生産、販売体制を管理・維持するためのコストであること。3つ目は時間とともに発生すること。家賃、人件費などがわかりやすい。
⑦管理会計的な思考では、固定費を使って付加価値を出すと考える。例えば変動原価100円のものを100円で売ることは手間をかけなければ可能である。これを200円で売るために固定費を用いるのである。
⑧固定費の基本的な考え方として、短期間での分析であること、正常な操業度であることを念頭に置きたい。
⑨損益分岐点と限界利益、経営安全率などがざっくりわかっていれば、業績連動給なども柔軟に設定できるようになる。
❸変動計算書の活用
①限界利益に占める人件費の割合を労働分配率といい、限界利益に占める営業利益の占める割合を資本分配率という。
②固定費を回収した後(損益分岐点売上を後)からは利益になる。どのタイミングで利益になるかという考え方は大事である。
③固定費をかけるということは、設備投資をする(=減価償却をする、リース料を払う)、人的サービスを提供する(人件費をかけること)を意味する。
④変動計算書からは付加価値の大きさ(限界利益率)と、付加価値を生み出している源泉(かかっている固定費)が分かる。
⑤変動費は業務活動原価とも呼ばれる。材料、外注費、商品仕入れなどの項目を考えるとわかりやすいが、次の売上を作るのに必要なものだからである。
⑥労働分配率は優良企業程小さくなる。限界利益の伸び率より人件費の伸び率の方が小さいからである。業者によるが、一般的な黒字企業は人件費率が50%前半、赤字企業は60%を超えるところもある。
労働分配率を決めるのは経営者にとって極めて重要な仕事である。労働分配率の範囲で昇給や採用を決めるからである。
⑦労働生産性とは1人あたり限界利益である。限界利益を従業員数で割る。労働生産性が伸びている会社は従業員が付加価値を生み出していると判断できる。
⑧製造業は粗利率より変動利益率が大きい。労務費や減価償却費が発生するからである。一方で、小売や卸などは変動利益率が粗利率より低い。そのため、小売業は量を売ったり、マーケティングを効率よく行う必要がある。
❹原価管理のポイントを理解しよう
①原価計算は全部原価計算と直接原価計算に分類できる。全部原価計算は原価の3要素(材料費・労務費・経費)を集計する。いわゆる簿記でやる財務会計である。一方で、直接原価計算は変動費のみを計算する。管理会計である。
②予定原価計算には見積原価計算と標準原価計算に分類できる。製造業などでは、科学的・統計的に分析した標準原価計算が使われる。入札などでは、見積原価計算が使われる。
③全部原価計算の限界は製造間接費の配賦が作業時間や機械運転時間など、基準を便宜的に変えることができるため正確性という観点からは限界がある。直接原価計算はその恣意性を排除して、製造マージンを算出する。
④全部原価計算と直接原価計算の1番の違いは固定費の考え方である。生産量>販売量の場合、全部原価計算は在庫分の固定費は計算に入れないが、直接原価計算の場合全て固定費を計上する。
イメージとしては、直接原価計算は全て販売が出来ずに在庫が残ってしまったことで固定費の回収ができないという感覚である。
⑤間接費の配賦の仕方を考えるにあたって活動基準原価計算(Activity Based Costing :ABC)という考え方がある。製造間接費が多い場合、配賦の仕方で大きく原価が変わるので、その正確性を期すためにこの考え方が生まれた。
⑥ABCでは、間接費は従来の作業時間や機械運転時間ではなく、その製品の注文を受ける手間、検査の手間などを基準に配賦していく。
また、販管費まで広げると、製品ごとの広告費、発送費、その他人件費などを具体的に製品ごとに落とし込んで、正確な原価を算出する。
⑦価格設定の仕方は以下のような方法がある。
1)原価から設定
製造原価や仕入原価から算定。競争力のない商品と競争力の高い商品で可能。
2)売れる価格から算定
家電量販店などが使う手法。売れ筋の商品の販売価格を決めて、そこから販売費と必要利益を決めて、仕入値を決める。販売力がないとできない手法。
⑧目玉商品、戦略商品はシェアをとりにいく、高粗利のもののついで買いを誘発する戦略として使われる。これは製造直接費+粗利で出す大胆な戦略。
❺短期的意思決定に役立つ考え方
①機会原価という考え方が重要である。単純な粗利の比較だけでなく機会原価を入れた比較で考える必要がある。例えば、ガソリンスタンドにおいて洗車する場合、機会洗車であれば人手はかからないが、手洗いであれば人手がかかるので、給油できる機会を逸してしまっているといえる。
②上記は直接原価(変動費+直接固定費[減価償却費、人件費、地代など])で考える。
③製造関連の分析で大事なのが、低価格で大量発注がある場合、その注文を受けるかどうかの判断である。例えば菓子屋があるものを1200円で販売している。これを900円で1万個のオーダーが来たら受けるべきか?
原価は材料費500円、外注加工費100円、固定費400円とする。設備稼働は年間12万個の予定で稼働率は80%を予定する。
この場合、フル稼働まで3万個の余裕があり、固定費は変わらないのであれば、限界利益は1個あたり300円であり受注すべきという判断になる。
『固定費の回収が限界利益の役割である』
④実際には固定費は微増するはず(水道光熱費、販売費、人件費など)なので、販売売上とコストを書き出して比較すると良い。
⑤時給の決め方は1時間あたりの限界利益と労働分配率で決める。その際、法定福利費(社会保険料)を考慮して1.2倍で計算すると良い。
⑥人員を増やす時はその人員の固定費を回収できるか考えること。目標営業利益率5%、限界利益率30%の例を考える。人件費が400万円とし、固定費率が25%であれば400万÷25%で1600万円の売上増加が見込めるのであれば人員増加すべきである。
⑦上記は損益分岐点比率から考えても良い。売上24000万円の場合、限界利益が7200万円、固定費が6000万円の時、損益分岐点比率は83.3%てある。固定費が増加してもこの比率を保つには400万÷83.3%で480万円の限界利益を稼ぐ必要がある。480万円の限界利益を稼ぐには480万÷30%で1600万円の売上を確保しなければならない。
⑧予算の立て方は以下のようにする。まず算定式は
必要売上高=(固定費+利益)/限界利益率
考える順番は、目標利益→限界利益率→固定費
目標利益の目安としてはROE、ROAなども加味するとBSとのバランスがとれる。
❻戦略的意思決定に役立つ考え方
①利益とキャッシュフローの違いを認識する必要がある。利益とフリーキャッシュフローの違いは、減価償却費・在庫・売掛金である。
②利益での評価は事業が順調であれば問題ない。しかし、事業が傾いたら、資産計上している設備は除却損が発生し、売掛金の回収や在庫も販売損が発生する恐れがある。
先行き不透明な場合はキャッシュフローで判断するのが適切である。
③フリーキャッシュフローで判断すると、大きい投資を実行した時に大きく凹む。なので、中長期の判断をするとに使うと良い。